札幌市中央区山鼻の住宅街にある、鉄筋コンクリート造の3階建て建物の前に車が横付けされた。運転者がトランクを開けると段ボールに入った青果の詰め合わせが素早く積み込まれ、ものの1分と経たないうちに車は走り去っていく。閑静な住宅街で今、そんな光景が繰り返されている。(写真は、水戸青果が始めたドライブスルー八百屋の青果セットの積み込み)
(写真は、水戸青果・水戸康人代表取締役)

 水戸青果(札幌市中央区南16条西12丁目)が始めたドライブスルー八百屋。新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店やホテルが休業、行き場を失った青果を一般消費者向けに販売しようと始めた取り組みだ。買い物客にとっても人との接触を極力避けることができる。1日200箱が売れるなど、ドライブスルー八百屋はコロナ禍の消費者ニーズを捉えている。

 閑静な住宅街にある水戸青果はその看板がなければ普通の住まいと勘違いしそうだ。同社はここで一般向けの八百屋を営んでいるわけではない。1階を倉庫と事務所として利用しているが、販路は札幌中心部や定山渓温泉の飲食店やホテル。いわゆる業務用の青果卸を営んでいる。社歴は40年余り、年商2億円、鮮度の良い青果物を提供することで取引先の信頼も厚い。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で3月初めから徐々に納入量が減り、4月に入ると休業や時間短縮をする取引先が増え納入量は激減した。納入が減っても生産される青果の量が減るわけではない。行き場を失った青果は廃棄されるしかない。

「何とか売れる方法はないか」。2代目の水戸康人代表取締役(34)は当初、一般消費者から注文を受けて配達するデリバリーを考えた。しかし、一軒一軒、配達していたのではコストが合わない。そんな中、従業員の母親から東京で始まったドライブスルー八百屋のことを聞かされる。「これだ」。水戸さんは早速、ドライブスルー八百屋を始めた東京・大田区のフードサプライに電話、同社の竹川敦史代表取締役に教えを乞うことにした。ほぼ毎日、連絡を取り合うようになって1週間後、北海道も緊急事態宣言の特別警戒地域に指定されニーズは高まると判断、水戸さんはフードサプライの予約システムの導入やノウハウ提供を受け4月25日からスタートさせた。

 販売しているのは「もったいない野菜セット」(税込み5000円)で根菜類を中心にした2種類。青果は現在、札幌中央卸売市場から仕入れているが、仕入れ担当者は市場で10年以上働いたことがあるベテラン。担当者の目利き力を生かした新鮮野菜が売りだ。
 水戸さんは言う。「休業する選択肢もありましたが、コロナ問題が長引けば再開後に取引先が半減しているかもしれない。毎日、ミーティングをしている中で従業員から『一般の消費者に売ろう』という意見が出ました。どういう方法があるか考えていた中でドライブスルーに行き当たったのです」

 スタートした日は約70セット、2回目の28日は200セットが売れた。子育て世帯や高齢者夫婦、持病のある人など購買する人はさまざま。毎週火・木・土の3日間限定で販売していく予定だが、「利益は考えていません。生産者のため、消費者のためにという思いでコロナが収束するまで続けたい」と水戸さんは話している。



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