『戦わない経営』や『社長の仕事』などの著書がある起業の専門家、浜口隆則氏(45)が率いるビジネスバンクグループ(東京都港区)は『社長の仕事』と題した特別講演会を札幌で開催した。東京や大阪、名古屋などでは定期的なセミナーを開催しているが札幌では初の開催で約120人が参加。浜口氏は日本の開業率を10%に引き上げることをミッションに17年前に自ら起業した経歴を持つ。来札した浜口氏に同グループの事業展開や札幌の起業環境について聞いた。(写真は浜口隆則ビジネスバンクグループ代表取締役)
 
 ――17年前にビジネスバンクを起業した経緯は。
 
 浜口 横浜国大を卒業して米ニューヨーク州立大を卒業後、長野市の会計事務所に勤めた。そこで多くの経営者と接するうちに、こうした元気のある経営者がもっと増えないといけないと思いを強くし、日本の起業環境を良くしようと28歳の時、東京で独立した。当時、起業の環境は良くなかったが、『日本の開業率を10%に引き上げる』という目標をその時に掲げてスタートした。
 
 ――浜口さん自身も起業意欲が強かったのか。
 
 浜口 両親とも事業家として別々の仕事をしていたため、自分で事業を興すことに抵抗はなかった。ただ、実父の事業は私が18歳の時に立ち行かなくなり大学の授業料も払えない状況になったことがあり、できれば経営のコンサルタント的な役割でスペシャリストとして生きて行こうと自ら起業するつもりはなかった。しかし、様々な経営者と接するうちに何となくだが、沸々とそういう気持ちが湧き上がってきた。
 
 ――起業後は順調だったのか。
 
 浜口 やりがいのある仕事だから1人でワクワクしていたが、最初は全然うまく行かず大変な目にもあった。なにしろ起業する人にはそもそもお金がない。そんな人を相手に商売ができるのかと支援してくれた人たちから別の事業へ進むよう忠告も受けた。しかし、自分はこの仕事がやりたかったので貫き通した。
 
 ――軌道に乗ったきっかけは。
 
 浜口 最初に手掛けたのはレンタルオフィス事業。当時の起業環境で最も遅れていたのがオフィスの確保だったからだ。なにしろ当時は家賃の1年分近くを保証金として差し入れないとオフィスが借りられない。起業した人たちが一番困るのはオフィスを借りることだったのでこうした起業家にオフィスを割安で貸し出そうと始めた。この事業も最初の3年間は苦労した。新しいビジネスだったのでなかなか認知されない。インターネットも普及していなかったから僕らのような体力のない会社は広告する手段もなかった。
 しかし、3年後から事業が拡大し、以降はこれが当社の安定的な収益源になっていき最盛期には東京都内で500室をレンタルするほどになった。
  
 ――しかし、レンタルオフィス事業は昨年売却することになった。
  
 浜口 レンタルオフィスは既に業界ができるほど大きくなったし同業者も多い。それ以上に、当社でこの事業に頼る傾向が強くなって当初の起業環境を良くするというミッションがかすみがちになったからだ。どうせ売るなら最大手にということで日本リージャスに売却した。
 
 ――起業を総合的にサポートする事業だが、特色や差別化している点は。
 
 浜口 大きく言うと3つある。まず起業したときにすぐに事業ができるような環境を作ること。オフィスが借りられないとか、法人を設立しにくいなどのハードルを下げる仕事だ。2つ目は教育。僕ら自身も一事業者なので感じていることは「経営者は学ばないといけない」ということ。経営者が学ぶ場を提供する仕事が2番目だ。3つは啓蒙。起業という選択肢があることを世の中にもっと知って欲しいということ。日本の開業率を上げるためには、環境を整えて教育して啓蒙する必要があると考えている。環境を整える仕事から徐々に教育、啓蒙へと仕事の幅を増やしていこうと考えている。
 
 ――起業しても生き残る確率は少ないのではないか。
 
 浜口 10年のレンジで見ると10%しか生き残っていない。3年で半減して6年後にさらに半減、9~10年後にさらに半減していくようなイメージだ。「3年半減の法則」と僕らは言っている。しかし、これもやり方次第。起業して成功するのは確かに簡単ではないが、高跳びに例えるとバーがすごく高いわけではない。跳べる位置にあるのに跳ぶ側の経営者がその準備をきちんとしていないためにうまくいかないケースが大半だ。
 
 ――開業率を10%に引き上げるのがミッションだが、現状はどうか。
 
 浜口 バブル的な起業ブームがあると4%超えるが、今は3%の後半くらい。アメリカや韓国は10~15%で推移している。官や様々な公的機関が創業支援の環境を整えており、今では世界的にみても起業の環境は恵まれている。後は文化の問題だろう。リスクを取って志を持って起業する――こうした文化的な背景を高めていく方が必要ではないかと教育、啓蒙にシフトしている訳だ。
 
 ――今回、初めて札幌で講演会を開催したが、なぜ札幌に着目したのか。
 
 浜口 僕らは6大都市圏で定期的なセミナーを行っていきたいと考えている。札幌と仙台以外の東京、名古屋、大阪、福岡では既に『プレジデントアカデミー』というセミナーを開催しているが、地域ごとに地に足を着けた形で活動しきたいと考えている。  
 
 ――東京から見た札幌の経済環境や起業家意識は。
 
 浜口 東京に比べるとやはり情報の格差があると感じた。北海道はこれまで豊かであくせくしなくても自給自足でやっていけた社会だったように感じる。ビジネスを成長させようという欲があまりないのかなとも。ただ、ポテンシャルがあることは東京から見ていても実感する。起業の文化、チャレンジする文化が育ってくればとても期待できると思う。


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