JR旧苗穂駅への鎮魂歌

社会・文化

 昨年11月のJR新苗穂駅の開業で役割を返上した旧苗穂駅。昭和の趣を色濃く残していたその駅の解体撤去作業が始まった。駅舎、跨線橋、ホームーー今となってはどれをとっても郷愁を誘うものばかり。新旧交代で人々の日常を支えてきた老兵が令和元年の師走、鬼籍に入る。
(写真は、解体作業に入ったJR旧苗穂駅と跨線橋)

 旧苗穂駅は、1935年に誕生した2代目の駅舎。昨年11月17日、札幌方面に約300m離れた場所に開業した新駅にその役割を引き継ぎ、83年間の勤めを終えた。戦中や戦後の混乱期、高度成長からバブル時代、そして失われた20年へと続いてきた昭和と平成の時代を静かに見守ってきた。

 改札を行き交う人たちの白い息、跨線橋に響く靴の音、ホームを吹き抜ける冷たい風。おしゃれでもよそ行きでもない実用的な駅舎には幾千、幾万の人たちの日常の物語が染み込んでいる。
 そんな日常を積み重ねることで価値を宿してきたのが旧苗穂駅だった。今、老兵のように佇む駅舎は、時間が過ぎるのを拒絶しているようにフェンスで囲われ、解体作業を待っている。静寂の広がるホームには列車が次々と通り過ぎていく。

 時代を背負い続けてきた83年間の歴史は、あと半年で土に還る。消えゆく駅舎への寂寥感と向き合う時間を持ちたい。

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