夕張郡長沼町フシコ番外地にある「馬追(うまおい)温泉旅館」が10月31日、110年間続いた営業を終えた。長沼の温泉として親しまれて1世紀以上、晩秋の紅葉に包まれてひっそりとその灯を消した。(写真は、10月31日で営業を終了した「馬追温泉旅館」)
(日帰り入浴でもらえるタオルには、感謝の言葉が添えられていた=写真)
馬追温泉旅館は、長沼町から由仁町に抜ける道道3号線のほぼ中間にある。1908年に新納市衛門氏がこの地で創業した温泉旅館で、今年が営業開始から110年目の年に当たる。
現在の建物は、1960年代に建てられた2階建て。部屋は1階と2階を合わせて10室ほどあり、風呂は玄関を入って左側の1階奥にある。湯舟は4人が入れる程度の小さなもの。温泉に付き物の露天風呂はない。泉質は、無色透明の単純硫黄冷鉱泉で、摂氏16度で噴出。それを加温して40度を超える程度の心地良い湯温にしている。
4代目の新納氏が経営を続けてきたが、閉館・閉湯を決めたのは、保健所の飲食業営業許可がこの10月31日に切れることがきっかけの一つだったそう。旅館には水道が来ておらず、料理作りなどもすべて冷鉱泉を沸かすなどして対応してきた。
しかし、保健所は水道の利用が望ましいという立場。新納氏は営業許可の更新をせず暖簾を下ろす選択をした。後継者がいないことや建物の老朽化も決断した理由だったそう。
温泉の浴室には大きな窓があり、最後の日は湯舟から赤く色づいた葉がいくつも見えた。湯に浸かっている身体も冷えてくるような細く寒々とした雨が葉を濡らしている。こうして晩秋から冬に向かう季節の変化を感じながらどれほどの人が馬追の湯に身を委ねただろう。明治から大正、昭和、平成と来る人を癒し続けた110年が静かに時の刻みを終えた。