衆院北海道2区選出で議員辞職した元農水相の吉川貴盛氏(70、自民党離党)が、鶏卵大手のアキタフーズ(本社・広島県福山市)の秋田善祺元代表(87)から大臣在任中に現金500万円を受け取ったことが贈収賄にあたるとして、東京地検特捜部が15日、収賄罪で吉川氏を、贈賄罪で秋田氏を在宅起訴した。道民の負託を受けて当選6回を重ねたベテラン国会議員の吉川氏は北海道に何を残したのか。(写真は、2017年8月に行われた自身の政経パーティーで話す吉川貴盛氏)
吉川氏は道議3期の後、1996年の衆院選に自民党公認で道2区に出馬。札幌市議から転じた当時の新進党・長内順一氏に敗れたが比例復活で当選。安倍晋三前首相や菅義偉首相とは96年当選組で同期。96年以降、8回の選挙のうち、2度落選し当選も小選挙区での勝利は4回、比例復活2回で選挙には強くない政治家だった。
盤石な支持層が広がらなかったのは、吉川氏の政治家としての魅力に欠けたからだ。政治家風だが政治家ではなかった。それは自身の政治哲学、政治家として何を為すべきかを自身の中に明確につくり上げていなかったからではないか。それが選挙に弱い一因でもあった。
政治家は、大勢の聴衆を相手にした演説もさることながら、少人数の会合でも参加者の心を掴まなければいけない。それが宿命。吉川氏の話は、政界トピックスを交えながら流れも良くて飽きさせない。しかし、それは話し方がうまいのであって話がうまいわけではなかった。話のうまさの裏にはやはり確固たる政治哲学の表象がにじみ出るものだろう。
当選同期の菅首相は、官房長官時代の17年、吉川氏の政経セミナーで吉川氏をビデオメッセージでこう評している。『吉川さんは、今回の人事で異例の4期目となる党経理局長に再任された。党のおカネを一手に握る極めて重要な役職で安倍総理、二階幹事長の信頼がいかに厚いかの現れだ』
人を見る目というものはそう揺るがないもの。わずか3年前に菅首相は吉川氏をこう見ていたとすれば、菅首相の鑑識眼もそう確かなものではなさそうだ。
吉川氏は、福田改造内閣、麻生内閣で経済産業副大臣、第2次安倍内閣で農水副大臣、第4次改造安倍内閣で農水大臣を歴任してきた。農水大臣の職に就きながらも北海道では故中川昭一氏ほどの信頼は得られなかった。選挙に弱かった吉川氏は14年と17年と小選挙区で勝利、ようやく盤石の体制ができ始めた時に、贈収賄事件で被告の身となった。全力で歩んできた政治家人生の結果がこれでは、支援してきた道民の約20年間は幻(まぼろし)になる。感情の振幅を決して見せなかったあの細い眼の奥にはどんな宿痾(しゅくあ)があったのか。