ーーオーバーツーリズムの問題は生じていませんか。
吉田 顕在化しているのは、交通渋滞です。スキー場から中心街まで、冬でも車で通常なら15分もあれば行けますが、今シーズンの混雑時には1時間かかりました。これについては、従業員たちの車をスキー場に入らせないように、街中からスキー場までバスを走らせる実証実験を国土交通省が実施しました。ただ、直前での告知になってしまい、当協会からの宿泊施設やスキー場の従業員向けに周知が進まず、実証実験の効果があまり出ていないようでした。これについては、来シーズンも、実施してもらいたいと思います。
アプリを使った「GO」タクシーの実証実験も行われました。こちらの評判は予想以上に良かったのですが、やはり11台ではまだまだ車両が足りません。昨シーズンはタクシーに全く乗れなかったようですが、今シーズンは1時間待ち、2時間待ちではあるものの、乗れるようになったと聞いています。とりわけ、夜間に中心部からヒラフ地区までの利用が多かったようで、実車率は東京圏を超えたといいます。東京から来ている若い運転手たちは、休日にスキーを楽しんでいる人もいます。今回の取り組みは、観光地でのライドシェアの道筋を確実につくったと思います。本当にありがたかったですね。
このように、オーバーツーリズム対策も少しずつ、さまざまな方面の協力をいただいて進みつつあります。ただ、町民がスキーに行こうとしたら、町内は混んでいるので、札幌に行くというジョークも出るには出ています。
ーー飲食代が高くて、トロ1貫2000円だそうですね。
吉田 それらは、外国人が食べるものの価格です。確かに地元のスーパーでは、6万円のウニが売っていたり、高価な松阪牛も並べられています。それは品揃えの一環であって、地元住民向けの妥当な価格の精肉ももちろん売っています。決して、住民向けの食料品価格が吊り上がっているわけではありません。
ーー観光関連の方々は確かに潤っていますが、住民の方たちはどうでしょうか。
吉田 住民への経済波及も進んでいると思います。ベッドメイクの時給が2000円になったとか、最近オープンした「すき家」の時給が2000円だとか、札幌よりも時給が高くなっています。今シーズンは、スキマバイトサービスの「タイミー」も入ってきました。面白いことに、大学生たちがスキーをしたついでに、ニセコで2時間、3時間働いて帰るとか、働いてからスキーを楽しむとか、面白い人の流れができつつあります。
「タイミー」によって当観光協会も、さまざまな作業を外注することができるようになりました。今までは、働き手がいないために自分たちで対応していた仕事を、外に出すことができるようになり、協会の職員は本来の仕事に集中できるようになりました。相対的には、人手不足ですが、「タイミー」によって新たな働き手を呼び込めるようになりました。
ーー今後も大型開発は進みますか。
吉田 大型開発は、ほぼ終わりに近づていると思います。大型物件を建設できる土地が、ほとんど残っていないので、新規に入ってくる海外資本は少なくなるのではないか。これからは、既存物件のスクラップ&ビルドが始まるとともに、北海道新幹線の倶知安駅開業のタイミングで進む駅前開発に移っていくでしょう。いずれにしても、ニセコはスキーリゾート地として世界的に認知されたと思います。ただ、2次交通は圧倒的に遅れているので、こちらの整備を急がなければなりません。
ーー2次交通では、まちとスキー場を結ぶロープウエイ構想もありますね。
吉田 商工会議所が中心になって横浜に視察に行っています。石狩市でも、都市型ロープウエイ構想が浮上しており参考にしたい。新幹線倶知安駅の北側の開発予定地には、ロープウエイ用のスペースを確保しておこうという動きも出ています。無人運転など技術革新でどこまでやれるかは分かりませんが、期待度は高い。
ーー路線バスも外国人スキー客で混雑しています。
吉田 バスの運転手は大変ですよ。今も、整理券と現金の対応ですから。外国人と話が通じなくて、運転手のストレスが溜まり、離職してしまう例もあると聞いています。キャッシュレス対応にするには、2年かかるそうです。JRの小樽駅と倶知安駅の間は、今も現金しか使えません。スイカやキタカは、小樽までしか使えないのに、そういうことを知らない外国人が、たくさん降りてきますから、倶知安駅は大混雑です。毎年、このシーズンに同じ光景が繰り広げられています。JRは、キタカ対応にするための新たな投資はしないでしょう。新幹線が開通して、いずれは廃止される山線なので、新たな投資ができないのでしょう。
小樽駅と倶知安駅の間は、このシーズンなら山手線並みに混んでいますが、抜本的な対策が図られません。例えば、3両編成にして1両を荷物専用にするとか、そうした動きが全くない。ニセコの光と影で言うと、まさにこうした部分が影でしょう。
ーーこれまで課題とされた夏のアクティビティーも増えています。自転車レースのニセコクラシックも根付いてきました。
吉田 2026年に、世界的な自転車レース大会をニセコで開催してほしいと、主催者のヨーロッパ本部から連絡が来ており前向きに検討しています。倶知安町とニセコ町は、誘致にOKを出しました。6月頃に、お客が少なくなる時に開催すれば、夏のニセコを世界に発信する非常に有効な機会になると思う。自転車レースの聖地にしたいと考えているので、正式に決まればとても楽しみな大会になります。その他にも花園地区では、夏のアクティビティーも充実してきました。