壺屋総本店・村本暁宣社長インタビュー「ときの杜 買物公園店の狙いと今後の成長戦略」

経済総合


 ーー網走にある東京農業大学生物産業学部では、非常勤講師もされていますね。

 村本 東京農大で「お菓子のネーミング」授業があって、当社が委託しているコピーライターが講師を務めていました。ネーミングのためのお菓子を作ってほしいという話になったので、作って大学に持っていくと、そこには教授もいて様々な話をしているうちに経営の裏話になりました。有能で研究員を輩出しているような大学なのですが、商品の原価計算や値付けに関して、学生や教授たちはほとんど知らないのが実態でした。「授業で裏話を交えて話してほしい」と言われたのがきっかけで、講義をするようになりました。講義では、当社の決算書を参考に、店舗新設の設備投資をすると財務状態がこう変わるとか、新しいお菓子を出してこういう手を打ったら経営に貢献するなど、面白おかしく話して学生たちにヒントを与えられたらという思いで続けています。

 ーーところで、社長が目指す会社像とは、どういうものでしょう。

 村本 当社には、高校生が多く入ってきますが、高校生は、会社を職種で決める傾向があります。それはそれで大事ですが、働いて楽しいか、うれしいかは、実際に働いてみないと分からないもの。普通に働いていたら多分あまり分からないものです。突っ込んで突っ込んで、苦しい思いをして何かを達成した時に、ようやく仕事の楽しさが分かってきます。そうした仕事の醍醐味を覚える前に、会社を辞めてしまう人がすごく多い時代になっています。
 ウィリアム・グラッサーというアメリカの心理学者の選択理論心理学という考え方があります。人は、内発的な動機付けでしか行動を起こさないというものです。会社内でも、こういう選択理論心理学の考え方である内発的な動機付けのためにどうするかを考えなければいけません。会社は、個人の自己実現の場でなくてはいけないという考え方を取り入れようとしています。

 私は、母校である旭川実業高校でここ数年間、お菓子の商品開発について課外授業を行っています。学生たちが考案したお菓子のプレゼンを校内で行い、1位になると学校祭で実際に販売されたり、中学生のオープンキャンパスのお土産になったりします。そこに参加していた学生たちが当社に入ってきたのが昨年でした。高校時代にそういう経験をしているので、当社の製造ラインでお菓子を作っているだけではなく、何かを作り上げたいということを言い出しました。
 企画部門に異動させたところ、今回の新しいブランドである「potea」の開発に繋がったのです。自分たちの自己実現が、会社の事業として達成できる機会があったことで、今後の彼女たちの成長にどう影響していくかが、大きなポイントだと思っています。
「ときの杜」が軌道に乗れば、次はどうするか。出店するとすれば、札幌なのか東京なのか。自発的に自動巻きのように彼女たちが動くかどうかが、私の関心事のひとつになっています。「次はここに出店するから行くぞ」という上意下達ではなく、自分たちでリサーチして「ここにあの店をつくりましょう」というようになってくれば、大きな成果だと思います。

 ーー自己実現の場として自ら動機付けをしていくということですね。

 村本 「壺屋」で働く若手社員には常に探求心を持たせたい。探求心を元にベンチャー的な動きをしたいと考えている社員も多いと思うので、1人でも2人でも具体的な動きができるようになると、社内の刺激にもなります。良きにつけ悪きにつけ、伝統のある老舗と言われているお菓子屋には古臭いしきたりのようなものがあって、社員たちはそれを壁だと思ってしまいます。それを破ってはいけないのではないか、と思ってしまう。しかし、壁なんてものは本当はどこにもないのです。

 ーー本日はありがとうございました。

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