(写真は、建て替えられた「千歳本店」=2019年12月9日の建て替えオープン時)
ーー地域の生産者との結びつきも「もりもと」の強みではないでしょうか、
森本 「どら焼きヌーボー」という商品があります。15年間、同じ芽室町の農家の方に小豆の生産をお願いしています。昨年秋、その農家の方を訪ねました。毎年採れたての小豆をすぐ選別して加工場に送ってもらい、そこで豆を磨いてから当社に入れてもらっています。そして当社の工場で炊くのですが、小豆の粒度によって炊く時間を変えるなどまさに時間との勝負です。
毎年、新物のヌーボーの販売開始は10月と決めています。その農家の方と一緒にこれまで行ってきたプロセスがすごく大事だと思っているのですが、そういうこともお客さまに伝えていかなければいけないと思いました。
一見するとどのお菓子も同じように見えます。「どら焼き」も、どこのお店が作った「どら焼き」か、見るだけではなかなか分かりませんが、食べてみるとどちらがよりおいしいかが分かります。こだわりや歴史を商品に凝縮させることで価値が出てくる。それが専門店として大事なことではないでしょうか。
コンビニエンスストアやスーパーなど量販店にお菓子がたくさん溢れている中で、買いやすくて便利な方にお客さまが行くのは致し方がない。専門店の意味が薄れていく中で、「もりもとが70年間続けてきたことはこうです」とお客さまに分かりやすく伝えることは難しいことですが、やらなければならないことです。
おいしい商品を作るためにはどうしても生産者と結び付かなければなりません。採れたての一番おいしい状態でお客さまに食べてもらいたい。苦労してでもそういう状態で出そうという商品の代表格が「どら焼きヌーボー」。その他の商品もそういう作り方をしてきましたから、季節限定が必然的に多くなってきました。
一昨年は、小豆の不作で収穫量が大きく減りました。でも私たちは契約農家と結び付いていたので量は少なかったですが、輸入品を使わずに生産できました。北海道の農家が生産する農産物がなければ私たちは商品が作れません。原材料がひっ迫しているのであれば、価格に転嫁することも大事だと思っています。そういうこともあって、小豆を使った商品に関して一昨年は消費者に値上げを受け入れてもらいました。そうしないと結局私たちも「もっと安くして」と農家に要求することになってしまうので、そうした流れは食い止めなければなりません。
ーー農家の後継者不足など原材料の入手も困難な時代になってきています。
森本 原材料に言及すれば、北海道の農家の方々は後継者など切実な問題を抱えています。良い素材を使っているから私たちが作る商品においしい味が出せていることは明らかなので、必死にメーカーなどと一緒に農家の方々の元に出向いて生産を依頼しています。生産をお願いすれば何とかなるような話ではなく、丁寧に私たちと良好な結び付きを地道につくっていくことしかありません。
前述したように「どら焼きヌーボー」の小豆は、新得町の契約農家に作ってもらっていますが、その農家の畑に行くと雑草が全く生えていません。炎天下の下で雑草取りも徹底して行っているからです。そんな農家の方々は北海道の宝だと思っています。私たちが「どら焼きヌーボー」を作り続けてきたからこそ、そういう農家との縁も生まれました。あの味を出すことは、私たちだけではできません。農家との関係性がすごく大切なのです。
お客さまに商品の価値を伝えていき、北海道の農産物を使ったおいしい商品を作り続ける環境を整えていくことが大切だと思っています。
ーーポスト70年ということで、もりもとグループの成長戦略をお聞きしたい。
森本 現在、グループ全体の売上高は約60億円ですが、将来の成長戦略は正直あまり明確には考えていません。外部環境がどんどん変わっていくので、その変化に対応しなければいけないからです。私たちは、和・洋菓子やパンを作ることしかできません。北海道の人口がどんどん減り、全国各地から移住・定住などで人が入ってくるようになった時でも、「おいしいね」と言われる商品を作り続けなければならない。土台は北海道、千歳のお菓子屋です。根無し草の会社になってはいけないと肝に銘じています。
千歳は空港も近いので新しいホテルがどんどん建設されています。気が付いたら私たちの生活圏でも外国人を多く見かけるようになりました。そういう人たちが来店して量り売りのパンや朝食を食べてくれたりします。そういう人たちもお客さまになってきているのです。