ダイイチ(本社・帯広市)の本領が発揮されるスーパーマーケットになるだろう。2025年3月21日にオープンした「ダイイチアリオ札幌店」(札幌市東区)。既に20年の実績がある大規模ショッピングセンター「アリオ札幌」の中核テナントとして、イトーヨーカドーアリオ札幌店の食品フロアを引き継いだ。ヨーカドー時代のお客の受け皿となり、新規のお客も引き寄せ、「アリオ札幌」全体の集客力を高める役割も果たすことになりそうだ。(写真は、大混雑する「ダイイチアリオ札幌店」)
オープン初日、開店時刻の10時前には、2つの入り口付近に合計1000人以上のお客が並んだ。ダイイチの社員たちにとって、これは想定内だった。オープンとともに、どっと店内に流れ込んだお客は、みるみる通路を塞いでいった。かつて、あるスーパーの経営者は、こう表現したことがある。《黒い波が押し寄せてくる》ーー混みすぎると、顔は見えずとも髪の毛だけが見え、その髪の色が黒い波のように通路を埋め尽くす。大繁盛の比喩は、正鵠(せいこく)を射ている。その状態が、この店舗でも再現された。
30分が経過して、ダイイチの社員たちは慌てた。「想定以上だ。これでは、お客さまの安全を確保できない」。入場制限が始まった。それでも店内のお客は、レジ待ちで長い行列をつくった。「店舗運営の準備が十分でなかった。反省点だ」。社員たちが、この店舗が持つポテンシャルを、改めて実感した瞬間だった。
ダイイチにとって、好条件が重なった。ヨーカドー食品フロアの閉店を前に、昨年、衣料や住居の上層フロアを先行して閉店。そこに「無印良品」や「ダイソー」などが入り、集客力が高まっていたからだ。既に20年の実績がある「アリオ札幌」には、ベースとなるお客もついている。さらに、「ダイイチ」が札幌に進出してから20年、市民に認知度が高まってきた中での出店。好条件は、いくつも重なった。
ダイイチは、イトーヨーカ堂(本社・東京都品川区)が30%の資本を持つグループ会社。もともとスーパーマーケットのMD(販売政策)では親和性があり、お客も被る。今回、「アリオ札幌店」での売り場レイアウトをほぼ踏襲したのも、そこを意識してのことだ。ヨーカドーの持つ上質性を生かしつつ、ダイイチの持つ価格のメリハリ力を付加させれば、スーパーマーケットの新しい在り方が形づくられてくるかもしれない。ディスカウントストアと一線を画す価格訴求型上質ブランドが、まさにそれだろう。
「アリオ札幌」という大箱の吸引力と相乗効果を発揮することができるスーパーマーケットは、ダイイチが唯一無二と言ってもよい。オープン初日、イトーヨーカ堂から転籍したダイイチ社員の一人は、「ダイイチの底力は想定以上だ」と呟いた。唯一のアキレス腱は、セブン&アイ・ホールディングス(本社・東京都千代田区)の買収防衛策に伴うイトーヨーカ堂の先行き。資本的な不透明さを抱えながらも、ダイイチが大化けする、可能性を秘めた店舗が船出した。