不適切会計処理で揺れるダイイチ、「調査報告書」で指弾された前社長、専務、常務

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 食品スーパーのダイイチ(本社・帯広市)が、札幌国税局からの指摘で明らかになった一部不適切会計処理問題。同社が4月に設置した第三者委員会は、この不適切処理に関する社内調査を実施、6月24日に「調査報告書」(A4判52ページ)を同社に提出、その内容が開示された。(画像は、ダイイチが設置した第三者委員会の「調査報告書」)

 不適切会計処理は、2022年3月から開始された札幌国税局の税務調査で明らかになった。2017年9月期以降、継続して納品されていない商品の仕入れ計上と棚卸の除外で利益を調整する売上原価の先行計上が行われており、同国税局は2021年9月期の売上原価の先行計上は、約8200万円であると指摘した。
 ダイイチはこの指摘を受けて4月25日、公認会計士や弁護士3人からなる第三者委員会(委員長・宇澤亜弓公認会計士宇澤事務所代表)を設置。同委員会は国税局から指摘された不適切会計処理の事実関係や原因解明と再発防止策の提言などについて調査を始めた。調査期間は4月25日から6月23日までで、役職員23人と会計監査人にヒアリング、計40回の委員会を実施して「調査報告書」(公表版)をまとめた。

 その内容は匿名にはなっているものの、不適切会計が始まった経緯や具体的な手口などが赤裸々に描写されている。例えば、こんな記述がある。《本件買込み(売上原価の先行計上)が開始されたのは、2014年9月期からであると認められるが、これはW氏(当時の社長)の指示のもとに行われたものであると認められる……買込みを行った背景は、株主に対して、右肩上がりの業績の推移を示すことにより経営の自由度を高める、すなわち、株主からの経営に対する干渉を排除したいという自己保身的な動機があったものと考えられる》

 また、現専務のB氏については、《本件調査において自己の責任を矮小化する供述を繰り返し、パーソナルコンピューターの電子データ削除及びこれを復元不可能とするための本件ソフトの使用を主導して調査妨害まで行ったことは、東京証券取引所が定める『上場会社における不祥事対応のプリンシパル』が、不祥事又はその疑義が把握された上場会社に対し、必要十分な調査による事実関係や原因を解明することを求めていることに照らしても、極めて大きな問題があったと指摘せざるを得ない》としている。

 さらに、現常務のC氏について、《B氏と同様に、2020年9月期までは重要な役割を果たし、また2021年9月期においては主に生鮮において主導的な役割を果たしたこと、経費の先行計上についても少なくとも2021年9月期においては主導的な役割を果たしたことから、責任は重大というほかない》としている。不適切会計処理の原因及び問題点として①取締役としての資質の問題②取締役の教育に関する問題③内部統制としての予算統制の趣旨・意義を損なう問題ーーと指摘している。

「調査報告書」は、再発防止策について《取締役及び監査役に就任する者に対して、上場会社の取締役等の義務・責任について十分に教育する機会を継続的に確保すること、将来の取締役等候補となる者に係る選任プロセスを明確にするとともに教育プログラムを策定、実行する必要があること、代表取締役の選任プロセスに関して必要な資質・能力を定め選任プロセスについても検討を行うべき》とした。ちなみに、現社長のA氏については、《本件買込みについて、関与していたとは認められないものの、これを認識しうる立場にありながら代表取締役として何らの対応も採らなかったという点において、一定の責任が認められるというべきである》と記述されている。

 今回の「調査報告書」は、ダイイチの上場会社としてのガバナンス、コンプライアンスが不十分だったことを厳しく指弾している。それはまさにその通りだが、少しばかり違和感も持たざるを得ない。それは、「ない」ものをあるように見せた「粉飾」ではなく、「ある」ものを「期ズレ」で処理した点で「粉飾」とは一線を画す行為についての調査にしては大掛かりということ。適正な期間損益の表示を歪めたことによって、株主やステークホルダーの判断を誤らせた点は、取締役の善管注意義務に照らして大きな問題がある。しかし、第三者委員会の「調査報告書」は個人の心象部分にまで切り込み、まるで裁判の判決文のようでもある。ここまであからさまに内部情報を開示する必要があったのかどうか。実行行為と「調査報告書」は、バランスを欠いているようにも見えてしまう。

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