日本アクセス北海道・布施和博社長が語る「胆振東部地震の教訓と中期経営計画の骨子」

流通


 ーー震災後は一気に買い物客が店舗に殺到して店頭にあった商品の多くが品切れになってしまいましたからね。

 布施 食品スーパーなどにはアイスクリームや市販用冷食のコーナーがありますが、当社が取引している北海道の食品スーパーや総合スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどを全部合わせると1500ヵ所くらいになります。その1500ヵ所の売り場が一斉に新装オープンしたようなもの。一度に1500店舗分が満杯になる商品を今日納品してほしいと言われてもそれは無理でした。
 当社は、フローズン商品もチルド商品もそれなりの在庫能力を持つセンターを構えています。フローズン商品では10万ケースに近いものを保管する能力を持っています。チルド商品も同程度の在庫を保管することができます。震災当時もある程度の在庫を持っていたことと、その後も自分たちで運んできた商品やグループで調達した商品など、各メーカーとの対応も非常にスムーズにできました。こうした商品調達力も発揮できたのではないかと思います。
 
 課題は、商品保管が効率的になりすぎて臨機応変な対応が取れなかったこと。当社の扱っているチルド商品とフローズン商品、ドライ商品のうちドライ商品のセンターは震災後も問題なく稼働できましたが、チルド商品は店舗の売り場がスカスカになってしまったので通常3万ケースぐらいしか出荷しないところに12万ケースほどのオーダーが入りました。入庫も通常は3万ケースしか入庫しないのに12万ケースくらいの入庫がくるなどいつもの4倍もの商品の出入りがありました。
 
 チルドセンターは機械化がそんなに進んでいない倉庫ですから、人を何十人か増やせば時間はかかっても処理が可能です。しかし、フローズンセンターは、保管能力は高いのですが、すべて全自動。停電の影響というよりも地震の影響で、自動倉庫がずれてしまい、いつもよりスピードが遅くなってしまいました。

 通常なら7時間ほどで終わる仕事なのに、量が400~500%になって処理速度が3分の1から4分の1に低下しました。人の手が使えないシステムなので、7時間で振り分けることができるところ、実に45時間かかりました。2日間徹夜して何とか初回の出荷を実施したのですが、お客さまの期待に沿える状況ではなかったと思っています。

 ーーそうした弱みをどうカバーしていくかということですが、それには投資も必要になってきますね。

 布施 短期的にできることと、中長期的にやらなければいけないことを分けて考えたい。当社は、この10年間で地方に分散していたセンターの大部分を札幌に集中させました。まだ地方にセンターはありますが、非常に少ない運用です。例えば今回、アイスクリームは地方にも分散していたので、震災後も地方での対応が可能でした。しかし、先ほど言いました市販用冷食やチルド商品は、石狩のセンターから全道をカバーする方式をとっています。地方に倉庫があってすぐに商品が配送できる卸と札幌から運ぶ卸とでは、大きく差が出たことは確かです。今後は、集中から分散も考えなければならないと思っています。

 ーー北海道の街は広域分散型ですから、どうしても集中させていかないとコスト過多になってしまいます。それでもある程度の分散化は必要だと。

 布施 当社には、地方に分散している商品と一ヵ所に集中している商品がありましたが、これに関して本当にこの物流体制でいいのかということを昨年から検討をしていたところでした。震災の経験を元に、集中と分散の区分けをどう図っていくか検討しなければなりません。
 もう一つの弱みは、システム面でした。実は、今回メーカーが『牛乳やヨーグルトをすぐ生産できない』ということで、例えば牛乳1万本の注文が来ても4000本しか納品できない状況になりました。残りの6000本については全部伝票を修正しなければいけない。当社のセンターや本社が手で修正しなければならなかった。修正伝票の枚数が1日9万行もありました。それを20人で7時間くらいかかって対応しました。これが終わらないと各社のセンターに届けられないからです。

 当社のセンターに在庫があるチルド商品は、当社の仕組みで自動的に振り分けできますが、メーカーから直接お客さまのセンターに持っていく豆腐、納豆、牛乳などはメーカーが振り分けたデータをファックスで当社に送ってもらい、それを当社が店別にどうするかをお客さまと相談しながら対応しました。それが毎日9万行、膨大な手書きによる振り分け作業を震災後、しばらく続けました。
 物流システムを今年1年かけて、日本アクセスの基幹システム『Captain(キャプテン)』に切り替える途中でした。ドライセンターは切り替えが終わっていたのですが、チルドとフローズンのセンターはまだ切り替えが終わっていませんでした。これが切り替わっていればもう少し臨機応変にシステム面でも対応できたのではないかと思います。

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