中国の水産物輸入停止により影響が出ている北海道のホタテ産業。浜値も下がっているうえ、冷凍両貝の加工会社は輸出先がなくなり、大量の在庫によって保管経費がかさんでおり、経営の先行きが心配されている。そんな中、北海道のホタテ産業についての課題をまとめた阿部欣司氏(大地みらい信用金庫地域みらい創造センター札幌オフィス上級アドバイザー、元北海道東北開発公庫)のミニレポートが注目されている。(写真は、ホタテの水揚げ現場)

 レポートによると、道産ホタテの輸出は、コロナ危機後に円安の効果もあって2021年は9万5000t、421億円で、比較可能な1988年以降で過去最高となり、2022年はさらに伸長して10万1000t、596億円に達したことを紹介。国別輸出では2021年実績で中国向けが9万t、334億円と突出している状況だと指摘している。中国向けの輸出量のうち、道内で獲れたホタテをそのまま冷凍する、いわゆる冷凍両貝が数量で96%、金額で79%を占めていることも示した。

 中国は、日本から輸入された冷凍両貝を中国国内で解凍、殻剥き加工、再冷凍をして米国のグリル料理向けなどに輸出している。日本国内には、こうした冷凍両貝は出回っておらず、ウロを除去した冷凍片貝が流通している。

 阿部氏は、道内のホタテ漁獲量の近年の増加は、人出があまり必要ない冷凍両貝の中国向け輸出によって支えられてきた側面があるとする。これは、実質的には原料輸出と言えるもので、付加価値向上に繋がらないとしたうえで、「根本問題は水産加工場の深刻な人手不足」と指摘する。さらに、人手不足が深刻化して国内水産加工業が衰退すれば、日本の需要量を満たすため、中国に輸出した冷凍両貝の加工品を日本向けに逆輸入せざるを得なくなると警鐘を鳴らす。

 政府は水産支援策を打ち出しており、ホタテ産地の地元冷凍庫に積み上がった在庫は、国内の他の冷凍庫に移されつつあり、中国が冷凍両貝を加工して輸出していた米国向けを、日本の直接輸出に切り替える動きも出ている。阿部氏は、「ホタテ漁と加工を一体的にとらえて世界のホタテ需要を取り込むために、人手不足対策や積極的な設備投資を誘導し、持続的な生産体制構築を目指す必要がある」としている。阿部氏のレポート要約は、大地みらい信金の「みらいレポートNO.016」に掲載されている。https://www.daichimirai.co.jp/local_creation/mirai_report/MIRAI_REPORT_016.pdf


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