TPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加問題では、北海道の農業団体や漁業団体、経済界などオール北海道が反対一色になっているが、TPP以前に農業や漁業の産業としての競争力強化が欠かせない。北海道総合技術研究所(略称・HIT技研)の萱場利通社長兼会長は、「北海道農業や漁業など一次産業の競争力を高めるためにはITの活用が不可欠だ」と言う。(写真は萱場利通社長兼会長)
 
 道内IT産業の中で一次産業分野でのウェートはわずかに1・6%程度。食料自給率200%を誇る北海道の一次産業がITとかけ離れた存在では、少子高齢化、人口減少が全国より早いスピードで進む中、地盤沈下は免れない。ITの活用は、一次産業を主力にする北海道経済の避けて通れない課題と言えそうだ。
 
 道内のIT産業売上高は、統計が明らかになっている2009年度で約3956億円、従業員数は1万9950人に及んでいる。しかし、道内IT産業の実相は首都圏を中心とした大手ベンターからの下請けがおよそ40%を占め、道内官公需も10%強で構造的に偏った成長軌道を辿ってきた。
 
 道内産業との関連を見ると、卸・小売・飲食などのサービス産業向けが7・6%なのに対して農業・水産業など一次産業はわずかに1・6%を占めているに過ぎない。
 
 萱場氏は、こう言う。「道内IT産業は年間約4000億円の市場があるものの、その85%が札幌周辺での売上げで占められている。残り15%が函館や旭川、帯広、釧路などの地方都市だが、今後は一次産業の中心地であるこうした地方都市での比率を高めていくことが必要だ」
 
 地場産業の代表格である一次産業と道内IT産業との密接度をより高めていくことが、IT産業と一次産業の競争力強化に繋がるという訳だ。
 
 一部では農業生産の効率化を目的にGIS(地理情報システム)やGPS(全地球測位システム)、衛生画像を利用した土壌分析や生産管理、トレーサビリティ(生産履歴)、残留農薬の適正管理のためにIT活用が行われているものの広がりは小さい。
 
「ITを活用することによって4㌔四方の微気象情報をリアルタイムで掴むことや潮流や海水温度を局所的に捉えて最適な漁獲時期を管理するなど、一次産業にITが活用できるフィールドはたくさんある」(萱場氏)
 
 TPPは道内一次産業に大きな影響を与えることは避けられない。しかし、守りに入ってしまっては競争力が高まらないことは明らか。新しい農業や漁業など一次産業の姿を少しずつ変えていくためにもITの接点を真剣に考えなければならない時期に来ている。


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