JA北海道厚生連会長やJA共済連北海道会長の奥野岩雄氏(68、JAふらの会長)が18日の両団体総会で退任する。2期6年の任期のうち前半3年間はJA全共連副会長、後半の3年間はJA全厚連会長も務めてきた。退任に際し北海道リアルEconomyは奥野会長にインタビュー、農業団体のトップとして大切にしてきた組織運営のポイントや昨今の組織改革についての考えを聞いた。(写真は、奥野岩雄会長)
「富良野農協理事に就任した平成元年から農協経営に関与することになってから25年になるが、一貫して貫いてきたのは『組織を作った人たちの思いに応える組織になる』ということだった。そこに向かって愚直に進めば役目を果たす組織になると信じている。働く場所が富良野農協から合併したふらの農協、上川地区農協組合長会、JA北海道厚生連、そして全国厚生連へと変わっても常にそこに基盤に置いて物事の判断をしてきた」
「結果はなかなか出せなかったが、その考えだけは貫いた。身を置く組織や時代とともにある程度考えが変わって行けば、抵抗が少なく迷惑を掛けることも少なかったかも知れないが、難しい判断をする際には息子や息子の嫁も関わっている農業をどうするかということを拠り所にした。そういう発想をすれば農業団体の仕事も分かりやすく明快な答えが出ると思う」
「常に組織の意識改革から手をつけたように思う。その組織が今までやってきたことを見直し、愚直な組織にもう一回変えて行く原点回帰が私の根っこの部分。だから極めて抵抗が強い。それは今も同じだ」
「組織には、どうしても防衛本能がある。今やっていることを方向転換することに無条件に反発する。そこが一番の難点。組織のみが生き延びれば良いという発想に陥りがち。組織を守るということは、組織を作った人たちの思いを守ること。本末転倒で組織のみを守ることが優先してはいけない」
「6年前JA北海道厚生連会長になった時、職員の意識改革と財務改善が喫緊の課題だった。札幌厚生病院の増改築が固定比率とか内部留保の問題で2ヵ年間先延ばしされていた時期で農水省の検査で指摘も受けた。そういう時は、物事は意外にやりやすいものだ。動乱、混乱の時期に意識改革や組織改革はかえって進め易い。やろうと思うことが短期間でできる。昨今、農業団体を取り巻く環境は非常に混乱している。先が見えず苦労するかもしれないが、そういう時にこそ原点回帰には良いチャンスと捉え、本来の組織に生まれ変わって行くべきだ」
「JA北海道厚生連では子会社関連の整理をしたが、小さな改革でも全体の意識改革の端緒になったと思う。子会社は作った時には意味があっても時の経過とともにその役割は変わって行く。農協組織も60年間、同じ形でいることがおかしい。どこかに無理がかかっている。時代にあった組織に作り変えていかなければ生きていけないだろう。ダーウィンの話が好きだ。大きければ生きられるものでもなく、強ければ生きられるものでもない、環境に適応することが生き残る条件だと。つまり常に変化していかなければ時代に沿った組織とは言えない。それが苦手なのが農業団体としいう組織。まさにそこの部分が政府自民党から指摘されているところだろう」
「どの組織でもそうかもしれないが、農業団体も変わり者を排除する組織には違いはない。道内でも浜中の石橋榮紀組合長、北そらちの黄倉良二元組合長など高い能力を持つ人たちがいる。農協が変わらなければならない時には本当はこういう人たちがリーダーになることが良いと思う。しかし、農業団体はこういう人たちを呑み込むだけの度量はない。調整で平均値の答えを出すことも大事だが、こういう時代にはなおさらそういう人材を組織は求めて行くべきだと思う」
「政府自民党のJA改革が進み始めたら農協合併は避けられない。今までは、中央会、ホクレン、信連が小さな農協でも運営できるように支えてきた。今度の流れは、単協が中心になってすべてをやりなさいということ。その時、農協はかなりの規模がないと対応できないだろう。農協が行政に代わって地域農業の振興をしなければならなくなる。農協は、地域の新しい芽を見つけて大きく育て産地化していくことが仕事になる。それには一定規模の力のある農協にならなければならない」
「若い農業者には新しい作物や新しい経営形態にリスクがあっても挑戦してもらいたい。大小にかかわらず常にチャレンジしていくことから次の時代が生まれてくる。現状にないものを自分たちがやることによって地域に芽を創っていくことが大事だ。人から何を言われようとも、結局変わり者が地域の新しい時代を切り開く原動力になる」
7月22日には、JA全厚連会長など全国団体の任期も終え富良野に帰り「百姓に戻る」という。ふらの農協会長は引き続き務めることになるが、子息とその夫人に任せていた野菜作りを手伝う。畑の広さは約20haで、たまねぎ、ニンジン、ニンニク、ホウレイ草を生産しており「徐々に体を慣らして生涯現役で農業を続けたい。農業ほど心と体の健康に良い仕事はないと昔から思っているから」と目を細める。「高2と中2の孫と親子3代で農業に取り組めることも楽しみのひとつ」と好々爺の顔になった。