JR北海道は16日、5月に石勝線で発生した特急の脱線炎上事故などに対する改善措置報告書を国土交通省に提出した。トンネル内で火災が起きた場合の手順や緊急避難マニュアルを整備し、すべての業務はお客様のためとして安全対策を指揮する社長の権限強化、さらに企業風土の一新に全力を掲げるという内容。しかし、本来なら求心力になるべき中島尚俊社長は12日の失踪から5日間を経ても依然として手がかりがつかめていない。トップ不在では、改善措置そのものの実効性が疑われる。JR各社の社長は政府の閣議了承が必要なため、JR北海道の危機に際して内部昇格ではハードルが高く、JR東日本からトップを受け入れる公算が強くなっている。(写真は東北新幹線「はやて」。トップ不在では北海道新幹線札幌延伸にも影響必至)
改善措置報告書の提出は、石勝線事故で国交省から事業改善命令を受けたことに伴うもので17日までに報告することが義務付けられていた。
主な内容は、トンネル内での列車火災発生時のマニュアル改訂、避難誘導マニュアルの策定、避難誘導設備の充実、安全基本計画の策定と実行、人材育成・教育訓練の強化――などとなっている。
安全性向上のための行動計画では、社長の権限強化や企業風土の一新、さらには社長をはじめ幹部が社員と対話をして意思統一を図ることなどが記されている。
いずれも改善措置も社長がその頂点に立ってこそ成り立つもので、中島社長が失踪している中では、その実効性が問われるのは明らか。
小池明夫会長が重要な経営判断や今回の改善措置報告書の提出のような対外的な業務を代行し、柿沼博彦副社長が社内の業務執行を担う経営体制を取っているものの、こうした臨時的な経営体制では小池会長が言う「出発点」にはなり得ない。
中島社長不在の中で、後任社長を選ぶのにためらいがあるのは理解できる。しかし、「すべての業務はお客様のため」と改善措置報告に盛り込んだ限りは、社長が兼務職では不退転で臨む姿勢とは言えない。さらに、北海道新幹線の延伸や並行在来線の3セク化問題などもトップ不在では解決しない問題が山積みだ。
そもそも、JR北海道には他のJR各社とは違う経営トップの人事事情があった。1969年国鉄入社組4人が経営中枢を占めていたからだ。
8年前に誕生した小池明夫社長のもとでは柿沼博彦副社長、中島尚俊専務、小池善明監査役の体制、4年前の中島社長誕生では小池明夫は会長に、小池善明氏は子会社転出、柿沼副社長は代わらずという体制になった。
小池明夫氏から中島氏への社長交代には、国鉄改革7人衆と言われたJR東日本の松田昌士元社長の意向が働いたとされ、JR会社の中で同期への社長交代は異例だった。
その後、4年前の道知事選を巡って「松田―小池ライン」は民主支持、「坂本(眞一元JR北海道会長)―中島ライン」は自民支持で分裂したこともあった。
いずれにしても、中島社長が見つからずトップ不在が長期化すれば折角の改善措置も実が伴わないものになる。内部昇格による社長就任には厳しい見方があり、JR東日本からの移入を含め外部から招聘することが有事対応の要諦となりそうだ。