北海道の若手経営者を育てる北海道経営未来塾(実行委主催)の経営実務講座が3月9日、ロイトン札幌で行われた。経営実務講座の講演内容は既に3月10日付本サイトで報じたが、今回の主催者である、北海道銀行(本店・札幌市中央区)の兼間祐二頭取が塾生約30人を前に話した北海道経済の景況認識とラピダス進出の受け止め方なども興味深かった。兼間頭取が挨拶を兼ねて話した内容を詳報する。(写真は、北海道経営未来塾で挨拶する北海道銀行・兼間祐二頭取)
「北海道の経済環境は良くないと思っています。良くないどころか、大変厳しいと私自身は受け止めています。昨年2月にロシアのウクライナ侵攻がありました。北海道銀行は、ロシアに拠点を持っている唯一の地方銀行です。状況は改善せず、3月末をもってユジノサハリンスクにある駐在員事務所を閉鎖することにしました。ウラジオストクに事務所は残し、情報を集中させます。経済状況や紛争の状況が改善することを期待していましたが、改善するどころか、状況は混迷を深めるばかりです」
「ロシアのウクライナ侵攻の影響と円安の影響で一番影響を受けているのが、北海道経済ではないかと感じています。北海道は、エネルギーを非常に必要とする地域ですし、なおかつ今回の冬は大寒波が多かった。いつも以上にエネルギーが必要でした。家計だけではなくて、企業の経営活動にも大きな影響を及ぼしたと思っています。日本全体は景気が少し上向きになっていますが、北海道経済は非常に厳しい状況にあるという受け止めをしています」
「一つの明るい話題はインバウンドの回復です。中国はこれからですが、私が旭川でいつも泊まるホテルは、ここ数年間はガラガラの状況でした。しかし、今年1月に行ってみたら、全て満室で圧倒的に外国人が多かった。男山の社長に聞くと、高いお酒から飛ぶように売れていると。やはりインバウンドの消費は、北海道の消費活動に本当に大きな影響を与えていることを改めて感じているところです」
「少しずつ観光地には明るさも出てきましたし、悪いことばかりではないのかなと思っています。ただ、足元については、非常に厳しい状況にあるということを考えて経営をすることが、間違いないのではないか。楽観的にいろんなものが改善するだろうと考えるよりは、足元が厳しい時に経営者としてどういう手を打たなければならないのかを考える重要な時期ではないかと思います」
「そういった中、北海道銀行は店舗を含めた構造改革に取り組んできました。この1年間を振り返ると、地方については、寿都、洞爺、中湧別、羽幌の4つの店舗の統廃合を行いました。地元の信用金庫としっかり連携して、地元信用金庫の支店の中に北海道銀行のATMを置かせてもらい、共同窓口という形で北海道銀行の手続きを信金さんの窓口でできるような形を進めさせていただいた。信金さんと、こうした取り組みをしたのは全国初です。今のところ、お客さまには冷静に受け止めていただいています。この方法が、私としては今、取り得ることができる中で、ベストの選択だったと振り返っています」
「札幌市内では、業務別の運営体制をほぼ2月で完了しました。法人、個人ローン、個人資産運用、窓口の4つの部門に運営体制を分けました。これも全国初の取り組みです。全国初のことが好きでやっているのではなく、私たちなりにこの経営環境をしっかり認識し、10年後の北海道を考えた時に、今、手を打たないと手遅れになるという強い危機意識のもとで進めさせていただいています」
「私が頭取になって1年半になりますが、明るい話はほとんどありませんでした。今年は、一つでも明るい話を届けたいと思っていますが、今の状況は厳しいという認識を持っていますから、まだまだ手を打たないといけないことがあります」
「組織風土の改革を目的に評価制度を抜本的に見直しました。業績偏重の評価制度に慣れ親しんでいる組織を変えることは、非常に大変だと思っています。時間をかけながら、プロセスを評価する新しい制度を浸透させていきますが、職員は少しずつ慣れてきてくれたのではないか。やはり、これからは人です。人なくして経営はできません」
「脱炭素は、1年前はただの言葉だけだったのかもしれませんが、1年たって今は、重要な経営の核心的要素になってきたと思っています。まだ、そう思っていない経営者の方は、早く発想を切り替えていただきたい。既に建設関連で言うと、国発注の工事はそうですが、市発注の工事にも脱炭素が明確に盛り込まれると聞いています」
「今回、千歳にラピダスが半導体の工場をつくるということで、5兆円規模の投資が行われます。周辺企業を含めると、北海道の産業構造を変えるくらいのインパクトがある事業が進もうとしています。ラピダスが、北海道に進出する大きな後押し材料になったのは、再生可能エネルギーのポテンシャルが全国で一番ということがあったようです。半導体はアップルなど世界に売っていくものですが、世界の経済活動は全て脱炭素がキーワードになっており、ラピダスも100%脱炭素をしないと半導体を世界で売っていけません。ラピダスにあらゆるものを供給していく周辺企業も、みな脱炭素に取り組んでいかなければならない」
「千歳地域は北海道を代表する再生可能エネルギー活用の工業地域になっていくでしょう。北海道には、再生可能エネルギーのポテンシャルがあると言われてきましたが、私たち銀行もそうですが、ポテンシャルを現実にエネルギーにしっかり変えていく動きをしていかないと意味がない」
「脱炭素は、製造業の分野だけでなく、これからはスーパーの販売面など、取引全てのキーワードになってきます。脱炭素に対する取り組みは、一社、一社に求められてくる時代がやってきます。もう他人事ではないという意識を持って、脱炭素に取り組んでいただきたい。これに取り組まないと、自分たちの将来のビジネスのチャンスが失われていく危機感を、ぜひ持っていただきたい」(構成・本サイト)