2月3日に死去した元北洋銀行頭取、武井正直氏の「お別れの会」が16日、札幌パークホテルで行われた。祭壇に掲げられた遺影は、武井氏が笑みを含んで語りかけるような横長の写真。福井俊彦前日銀総裁や五味広文元金融庁長官、堰八義博道銀頭取ら金融関係者や高橋はるみ知事、上田文雄札幌市長、道内経済関係者など約1600人が遺影に向かって献花、最後の別れを惜しんだ。(写真上段は、武井氏の遺影=左と献花する参列者、下段は囲み取材に応じる横内頭取=左と武井氏の写真パネル展示コーナー)
会は午後0時から始まり、弦楽四重奏が演奏される中をトップで武井氏の遺影の前に立ち、深々と頭を下げたのは福井氏。福井氏は日銀で武井氏の後輩に当たる。会葬のお礼のため並んだ北洋銀行の高向巖会長、横内龍三頭取、石井純二副頭取、喪主の武井喜代子夫人、長男長女の6人と短い言葉を交わしていた。
献花を終えた北洋銀のOB会「洋友会」の会長、田中千三氏(元交洋不動産社長)は、「組合問題や普通銀行への転換などいろいろなことが思い出される。私はOB会長を10年間務めているが、大所高所から奥深いアドバイスを受けた。仕事面では厳しかったが温かみがあった。寂しい限り」と故人を偲んだ。
また、3年前に閉店した割烹さわ田の女将だった澤田啓子さんは、「遺影に向かって『お店を続けられなくて申し訳ありません』と報告しました。武井さんは、『しょうがないよ』と言ってくれたような気がします。お座敷の武井さんは明るく楽しい方で、誰彼の分け隔てなく豪快でした。今はそういう方がいなくなってしまいましたね」と寂しそうに語った。
地下2階の会場では、武井氏のパネル写真や自ら書いた書、絵画が展示され、北洋銀と武井氏の足跡とともに武井氏の生きる指針の一端が紹介された。
午後2時30分に横内頭取が報道陣との囲み取材に応じ、「武井さんは、良く老子の言葉である『善行は轍迹(てっせき)なし』と言われていた。良い歩き方は足跡を残さないという意で、自分のやったことを言い振らすのではなく行動をしっかりすることが大事と、私自身も武井さんの書いた書のコピーをいつも持って自らを戒めている」
「武井さんはどんな方にも信念をストレートに伝える真っ直ぐな姿勢があり、それにプラスアルファの部分が加わって人々の胸を打っていたのではないかと思う。仕事では3年間のお付き合いしかなかったが、随分厳しいことも言われました。でも、それが私の中に染み透りました。あらためて人間力のあった方だと思います」と武井の魅力をしみじみと述べた。
また、銀行経営については、「武井氏はいつも健全経営に言及された。当行はリーマンショックで損失を出したが、一過性にとどめ健全経営に向けてしっかりと基盤づくりをしていく」と語っていた。
武井氏は、バブル後の道内金融経済界をリードしてきたが、能力、地位、人間性の3つをバランス良く個性に昇華させたところが多くの人を引き付けた理由だろう。権威と人間性のベストミックスは計算してできるものではなく、武井氏の過ごしてきた時間軸が配合の妙を輝かせてきたといえそうだ。
武井氏が1978年に北洋相互銀行の代表取締役専務に就いて以降、30年以上に亘って秘書を務めてきた女性が会場で目立たず目を潤ませていたことが印象的だった。