北海信用金庫が職員による着服事件を金融当局である北海道財務局に報告していなかったことが9日明らかになったが、この事件は合併による規模拡大で内部管理体制が追い付かない同金庫の実態をあらためて示した。伊戸隆紀理事長(68)は自らの判断で道財務局への報告を“飛ばす”ことを決めたというが、今年6月の総代会で膿を出し切って引責辞任する選択もあったはず。オリンパス事件と同様、トップ主導の不祥事隠しの代償は大きい。(写真は、北海信金の伊戸隆紀理事長)
北海信金が道財務局に報告していなかった着服は、2006年9月の蘭越支店400万円、同年11月の朝里支店201万円、07年2月の手稲前田支店336万円の3件。信金の監督当局である道財務局は2~3年に一度の金融検査を各信金に対して行っており、着服事件の“飛ばし”もこの検査で判明したという。
同信金はこの時期に職員による着服が相次いでおり、06年5月の黒松内支店で発覚した2800万円の事件は道財務局に報告していたものの、3件については内部で揉み消していたことになる。
今年2月には1000万円、600万円の2件の着服が発覚したが、これらの事件は道財務局に報告していた。
着服が相次ぐのは、同金庫が合併を繰り返し規模を拡大してきたことと無関係ではない。91年の長万部信金、97年岩内信金、01年道央信金、夕張信金、05年古平信金と5信金を吸収合併。吸収する北海の職員と吸収された5信金の職員に職務に対する温度差が生じてもおかしくはない。
その温度差を解消するガバナンス(企業統治)に不備があったことは否めず、それがコンプライアンス(法令順守)の欠陥へ結びついていった。
北海信金は、社会貢献を職員の士気向上の役立てようと、子どもたちの駆け込み窓口として各支店を利用することや認知症サポーター制度を導入、さらには森林資源保護のために植樹活動などを積極的に行ってきた。それでも、着服事件が終わらないのは、こうしたカバナンスに関わる内部体制が機能していないことを示している。
伊戸理事長が報告の“飛ばし”を主導していたことは、自らガバナンスを放棄していたと捉えられても仕方がない。北海信金は他信金を救済してきた面もあり、金融安定を維持したい道財務局に“貸し”があるという意識が多少なりともあったのではないか。しかし、そのことと法令違反(報告義務違反)とは別次元の話。
伊戸理事長は、66年3月に明治大経済を卒業後に北海信金に入庫し、99年6月に理事、01年6月に常務理事、03年6月に理事長に就任した。理事長就任後には、役員の定年制を導入し理事長は68歳、会長は70歳とするなど自らを律する規定を作った。
任期途中でも68歳を迎えていた今年6月の総代会で膿を出して引責辞任する選択を取っていれば、違った展開もあったはずだ。トップ主導の不祥事隠しは、着服事件以上にダメージを与えることになる。