地域に密着した金融機関として展開する協同組織金融機関の信用金庫。人口減少や少子高齢化という地域の厳しい状況を反映、マイナス金利も響いてこれから先の道筋をどう描くかが問われている。信用金庫の現状と次の時代に繋がる処方箋は何か――。協同組織金融機関に詳しい齋藤一朗・小樽商科大学大学院商学研究科教授に分かり易く解説してもらう「信金教室」の最終回。(写真は。齋藤一朗教授)
――2018年1月には札幌、北海、小樽の3信金が合併して『北海道信用金庫』(略称・しんきん北海道)が誕生します。北海道初の預金量1兆円の信金になりますね。
齋藤 私自身の考えで言えば、肯定的に捉えたい気持ちと懸念の気持ちが半分ずつというのが率直なところです。信用金庫の元々の存立形態を考えれば、『相互扶助』が第一。それは『顔の見える範囲』が1つの尺度になってきます。お客と非常に親密でお客自体が金融機関の経営にも注文をつけ、口出しできるスタイルが協同組織です。
組織が大きくなることによって、そのことがどんどん薄まり、どうしても金融機関主体の経営になってきます。もちろん金融機関の経営者は、地域を慮りながら経営を展開していくと思いますが、どうしても銀行に近くなってしまうのかな、という気がします。
――合併以外にも例えばアライアンス(提携、連携)を組む手法もあります。特に北海道のように広域分散しているところでは、地域密着を掲げて他の信金とアライアンスを組みことは効果があると思います。
齋藤 信金の成長が一般企業と同じように企業としての成長にあるということになると、『合併』に向かっていくかもしれません。そうではなく、『我々は金融インフラ産業として、その地域に存立し続けることに意味がある』ということであれば、極端な話、利益はトントンでも良い訳です。考え方をどう持つかによって方向性が変わってきます。
三つ巴、四つ巴の金融界で生き残り、勝ち残っていくという方向が強ければ合併の選択に繋がり、銀行に近くなるでしょう。一方、毎年の利益はぶれるかもしれないけれど、赤字にならずに少しずつ蓄えていけば非常に堅実で安全な金融インフラ産業として地域の頼りになるでしょう。時には、相互扶助の負の側面としてスネに傷を負うこともあるでしょう。そういうリスクも自分たちの自己資本の範囲でこなせる形で生き残っていくことも可能です。
そんなことから言えば、各信金理事長の志向性、トップの判断というのがこれから非常に問われることになるのではないか。
――業態間の金利競争は非常に激しい。合併するか、単独で存続するにしても競争は避けられませんね。
齋藤 確かに避けられません。『北海道信用金庫』は北洋銀行や北海道銀行、あるいは札幌にたくさんあるメガバンク支店との同質的な競争で勝ち残っていくことを結果的に選んだと言えます。他方でおそらく稚内、帯広などの信金は、規模は求めないけれども地元にがっちり食い込むという差別化した戦略で生き残りを図っていくのでしょう。
――現時点で合併志向か、単独もしくは連携志向かの信金を色分けすることはできませんが、敢えて言えば単独志向は「旭川」、「稚内」、「北見」、「帯広」、「大地みらい」などで地元と運命共同体的に活動していくように見えます。
斎藤 企業経営者的な考えの理事長同士は、おそらく合併を選択していくのではないでしょうか。個別金庫の名前は控えます。