「アベノミクス」の限界説やマイナス金利の効果がデフレ脱却に結び付かないなど不透明な要素が増えつつある経済の中で、北海道の景気はどの方向に向かうのか。インバウンドの増加や北海道新幹線の開業効果などをさらに伸ばしていくためにも、各地域で展開されている地方創生の取り組みを着実に進めていくことが求められる。就任1年を迎える北海道財務局の齋藤修局長に、北海道の景気実感と地方創生、信用金庫の再編などについて聞いた。IMG_4726≪さいとう・おさむ≫…1957年7月、函館市出身、58歳。国家公務員試験初級職76年採用。同年4月札幌国税局総務部総務課、77年3月東京国税局総務部総務課、85年7月大蔵省大臣官房秘書課、96年7月同課長補佐、2000年7月近畿財務局理財部理財課長、01年6月大臣官房秘書課課長補佐、05年7月同人事調査官、11年7月東京国税局荻窪税務署長、12年7月北海道財務局総務部長、13年7月東海財務局総務部長、14年7月理財局管理課長、15年7月北海道財務局長。81年3月中央大学法学部卒。

 ――着任されて1年が経ちますが、道内の経済状況をどう認識していますか?

 齋藤 私どもで管内の経済情勢を四半期に一度ずつご報告していますが、『緩やかに回復しつつある』という言い方をしています。北海道は九州の2倍の広さがあって単純には言えませんが、猿払のホタテが好調だったり十勝では非常に農産物の販売が良いという話も聞きます。一方でサケマスの関係で言うと、釧路や根室は厳しいという話もあります。インバウンドも含めた観光は非常に好調なので、それが消費に結びついたりもしています。観光は非常に裾野が広く色んな業種にまたがっていますから、まさに『緩やかに回復しつつある』ということです。今後は、北海道新幹線の開業がプラスに働いて全道にその効果が行き渡るように様々な策を講じていくことが大切だと思います。
 
 ――マイナス金利の影響など金融機関の決算を見る限り、なかなか厳しい状況のようです。マイナス金利の道内経済への影響はどう見ていますか。
 
 齋藤 一般企業がどうかというと、資金調達のコストは下がりますし個人のお客様では住宅ローンその他の借り入れをしようと思っている人たちにはプラスに働くでしょう。マイナス金利にはプラス面とマイナス面の両面があると思います。もっとも貸出しの金利が下がることで、設備投資、あるいは住宅投資が積極的になっていくかは少し中長期的に見ていく必要があると思います。
 
 ――インバウンドに関しても中国の経済変調が影響しそうだという見方もあります。
 
 齋藤 中国からの訪日観光客の層も変わってきて単価は少し下がり始めましたが、今まで売れていた耐久消費財を2つも3つも買ってもしょうがありませんし、化粧品に変わってきたなどとも言われていますから、そのあたりがどう響いてくるのか。中国の観光客だけに頼るのは確かに困るかもしれませんが、北海道は中国よりも台湾の観光客の方が多い。購入単価は統計を見ると、明らかに中国の方が高いのでその影響は当然あるでしょうが、中国には本当の意味での富裕層がいますから、そこに対応できるようなホテルやリムジンバスなどの単価を上げていくとか、色んな工夫ができると思います。
 
 ――懸念材料はあるけれど『緩やかに回復しつつある』というトレンドに変わりはないと。

 齋藤 経済情勢報告では海外動向のリスクも掲げていますが、北海道は輸出の比率が高いかというと、他の地域、特に東海などと比べると高くありませんので単純にほかの地域と同じように、例えば中国の景気が減速してどうなるかとか、原油が安くなったことでどうなるかと一律には言えません。短期的に北海道の場合、原油に頼っている部分があるのでプラスに働くこともあるでしょう。
 
 ――北海道の経済が5パーセント経済と言われたのはもう過去の話。道内総生産20兆円も割れて経済構造の改革は差し迫った課題ですね。

 齋藤 北海道は、今は4%から3・8%経済になっていますね。ずっと言われ続けていることですが、一次産品素材に付加価値をつける六次産業化を常にやっていく必要があると思います。もっと頑張れるはずですが、単純にはいかないことも分かります。例えば漁業の関係でいうと、どんと一気に取れる量の魚にじっくりと付加価値をつけるのはなかなか厳しくて大量に売ってしまうほうが良い場合もあります。ただ、せっかくの北海道産を本州資本のブランド向けに出してしまうのは残念。十勝では帯広信金などが「とかち酒文化再現プロジェクト」を立ち上げてオール十勝で付加価値品の創出に取り組もうとしていますし、こうした取り組みが重要だと思います。北海道というだけでブランド力は相当ありますからね。東京ではゴールデンウイークなど一番いい時期の物産展は、圧倒的に北海道なので、もっと積極的にどんどん動いていく必要があるでしょう。
 
 ――地方創生もそのあたりが切り口になりそうですね。各信用金庫でもバックアップをしています。
 
 齋藤 各信金はその地域が活性化しないことには、自分達のまさに商売に関わりますからお客様をいかに盛り立てるかが地方創生にもなります。そのことが雇用にも結びついて人口維持にも繋がりますから、この流れに各信金や地方銀行は真剣に取り組んでいると思います。昨年は非常に大きな動きがあって、地方版総合戦略を策定する際に地域の金融機関の果たす役割が大きかったですね。自治体は、広域な連携を組むことがなかなかうまくやれない。北海道は、振興局単位で道庁から人を送り広域連携で戦略を考えるよう取り組んでいます。また金融機関であればエリアが自治体よりも少し広いので、束ねたり方向性を持たせたりする役割はできます。そこをどこまでやれるかでしょうね。
 
 ――地方創生では金融機関の果たす役割は従来になく大きいということが言われていますね。
 
 齋藤 そこは肝になります。金融機関が取引先の今の財務状況だけを見て対応するか、将来性のある事業をしているかどうかを見て対応するかでずいぶん違ってきます。伸びる企業を失うことにもなりかねませんから、金融機関の目利き力、事業性評価は非常に重要ですね。まち・ひと・しごと創生本部には出先がありませんので、我々財務局や経産局なども創生本部と地方の繋ぎ役をしたり情報を流したり様々なバックアップをしています。我々が首長と話をさせていただいたりもしています。そういうことをしていくことも重要だと思います。
 
 ――地方創生と言いつつも、従来から地域で取り組んできたことをよりパワーアップしていくという意味になるのでしょうね。

 齋藤 市長や町長に話を聞くと「急に言われても知恵が湧かない」と言います。ただ今回そういう戦略を出す機会を得たことに「金融機関などと意見交換したり、広域での動きを作るきっかけになるので意味がある」ということをよく言われます。金融機関と自治体は財政資金を融資する関係が強かったのですが、自治体の企画部門と繋がるようになったプラスの効果を強調する首長もいます。 北海道は、食と観光が強みであることは間違いありませんが、先程言ったように北海道の場合は地域によって状況が本当に違います。

 例えば漁業でも養殖という農業的漁業とも言える手法をまねていくことも必要になるかもしれません。元々、漁師魂からすれば、本当はマグロのような魚を獲りたいということがあるかもしれませんが、色んなところで様々な提案がなされていくのだろうと思いますね。日本海側は海がよく荒れるそうですが、道南では例えばアワビなどの養殖も有り得るのではないでしょうか。金融機関もそういう方向を促しているようです。

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