札幌市と財団法人さっぽろ産業振興財団は25日、京王プラザホテル札幌で「第6回札幌市経済界フォーラム」を開催した。テーマは、北海道食産業の課題と可能性。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表の基調講演に続き、きのとや長沼昭夫社長、西山製麺西山隆司社長などの参加によるパネルディスカッションも行われた。約300人が参加し食産業の課題を探った。基調講演とパネルディスカッションの内容を抜粋し、2回に分けて掲載する。(写真は、講演する柴田明夫氏)
元丸紅経済研究所所長で現在、資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏は、『世界の食料市場と北海道食産業の課題と可能性』をテーマに講演。
まず、柴田氏が指摘したのは北海道とブラジルの共通性。「ブラジルは、資源大国だがその資源を十分に活用できていない。2000年ころの資源価格高騰の中で産業構造を工業化するべきだったが出遅れたため、現在でも中国や日本、アジア向けの資源輸出に甘んじている。北海道は人口も経済も全国の4%程度だが、農林水産の一次産業は12%もある。それなのにその潜在力が発揮できていない。外国からの輸入や国内からの移入が多く輸出、移出が少ない。この産業構造を変えていく必要がある。食クラスターなどで道内経済界や関係機関が動き始めているが、それらを活かし実行していくのが課題だ」と述べ、先進国に仲間入りできない未完の大国ブラジルと北海道の共通点を掲げ、食クラスターは北海道の潜在力を顕在化するチャンスと言及した。
柴田氏は、経済大国で食料資源大国でないのは日本と韓国くらいだとし、「食料1tを生産するのに2000tの水が必要。年間3000万tの食料を恒常的に輸入している日本は600億tの水を輸入しているのと同じ。水不足から食料輸入が今まで通りにはいかなくなる」と語ったうえで、「穀物価格は2000年ころからステージが変わりそれ以前より3倍にもなったが、これまでの円高で食料価格上昇は抑えられていた。しかし、最近の円安で、今後食料問題が国内で議論されるようになるだろう」と為替が食料問題に火を付けることを予測した。
そんな中でも日本の農業は衰退が止まらず、バブル後の失われた20年で農業の就業人口は半分近くに減少。耕作放棄地が増え地域のコミニュニティも機能不全状態。さらに意欲のある農家も高齢化し新規就農も進んでいない。規模拡大による農業資源のフル活用と6次産業化による高付加価値化は、世界の食料市場から見ても必要不可欠になっている。
柴田氏は言う。「北海道は素材など生産要素に恵まれており農業資源をフル活用して輸出へ活路を開くべきだ。食料安全保障の点でも輸出は大切。販路拡大には商社や商工業者とタッグを組み、関連産業との連携で付加価値を付け日本、北海道、企業のダブルブランド、トリプルブランドの戦略が必要。もっと大事なのは将来に向けてリスクを取って行く起業家が存在するのかということ。一連の動きが一度できると次々にイノベーションを興す仕組みが出来上がる」
北海道は食料素材が豊富にあって、「何でもできるのにやらない」(柴田氏)。食クラスターという“装置”をどう動かしていくか、北海道に求められている行動力には大きいものがあるが、柴田氏も最後には「何とかしてください」と哀願調で参加者に訴えていた。