北海道からグローバルな経営者を育てようと昨年からスタートした「北海道経営未来塾」の第2期が始まり、その1回目が23日に札幌市中央区の札幌パークホテルで開催された。塾生40人と一緒に著名な経営者の講演を聞く公開講座のトップバッターは、アインホールディングス(HD、本社・札幌市白石区)の大谷喜一社長。約250人を前に大谷社長は『成長への挑戦』と題して約90分話した。(写真は、講演するアインHD・大谷喜一社長)
大谷社長は37年前の1980年、勤務していた製薬会社を辞め薬局経営のオータニドラッグを設立、事業を始めた。初年度売上高は1000万円で大谷社長を含めて2人の小所帯。それが今や売上高2480億円、小売店舗と調剤薬局を合わせて1122店舗、パート職員を含めて従業員約9000人の会社に成長した。
設立から14年目の94年に株式を公開、当時の時価総額は240億円で株式の半分は大谷社長が持っていた。「上場してから調子に乗ってものすごく投資をした。それが大失敗に繋がっていった」。当時は血液検査とドラッグストアが本業で調剤薬局はまだ始めた段階。投資は、門外漢のホームセンターと家電量販店に集中した。
大谷社長は、経営者の愛読本として知られる『ビジョナリー・カンパニー』から企業衰退の法則を紹介、「成功から生まれる傲慢さ、事業欲・資産欲から生まれる規律なき拡大、リスクと問題の否認・先送りはその企業の破綻、消滅に繋がっていく。これはよくあるパターン」と自らの経験を照らし合わせて解説。
ホームセンターや家電量販店に投資して売上高は一時的に増えても利益が上がらない期間が続き、97年4月期は15億円の当期損失で赤字は4期連続。「もうだめだとわかってから切り替えていったが、97年11月にメーンバンクの拓銀が破綻。悪いスパイラルに飛び込んでしまった。しかし、維持するもの(調剤薬局とドラッグストア)と売却する事業(血液検査、ホームセンター、家電量販店)をはっきり分けて再構築、99年から先が見えてくるようになった」(大谷社長)
そこから現在に繋がる成長が始まったが、その時大谷社長は何を考えていたか。「他社との同質化をどう避けるか、競争を避けて成長の見込めるマーケットにどう進出するかを考えた。調剤薬局は医薬分業の政府方針も追い風になって市場規模が拡大することが分かっていたが、成長のスピードを上げなければいけなかった」としてM&Aを加速するようになる。上場していたことで資金調達の手段を持っていたためM&Aのスピードをどんどん上げていくことができた。
「調剤薬局事業には今、アゲンストの風が吹き始めている。他の業界から見たら『こんなのアゲンストじゃない』と言われそうな風だが、我々には戦える準備は整っている」と大谷社長は自信を覗かせていた。
上場の目的は資金調達だとしたうえで、経営者に必要な資質や態度についてこう締めくくった。「内に秘めた強烈な成長意識を持つこと、威張らず人の悪口を言わず自慢をしないこと。人がどう見ているかを絶えず考えて欲望をコントロールすること」。塾生と一般参加者たちは90分間の“大谷節”に聞き入っていた。