世界的な彫刻家、イサム・ノグチの母、レオニー・ギルモアの生涯を描いた映画『レオニー』が11月20日からロードショーされた。この映画の製作には道銀や道内企業、投資家によるファンドが組成されその資金が使われた。日本で初の取り組みとされるファンド支援として注目されるが、興行的成功を収めなければ、配当という形で投資家への還元はないのだが――。


自ら映画通と称し人並み以上に映画を鑑賞しているという札幌市内のさる経営者は、『レオニー』を見た感想をこう述べる。
「札幌と縁の深いイサム・ノグチの母親の生涯ということで興味を持ったが、端的に言えば興行的には当たらないと感じた。同時に上映しているのが『ハリーポッター』だったから余計にそう感じたのかも知れない」
『レオニー』は、100年前の米国と日本を舞台にして未婚の母となったレオニー・ギルモアの生涯を描いた映画。企画、制作、配給の資金面を支援するために「レオニー投資事業有限責任組合」、略称でレオニーファンドが07年6月に発足した。
ファンドの組成は、大手資本に頼らない映画製作者に対して新たな資金調達法として注目され、地域資源を活用する映画を地元企業の出資によるファンドで支援する国内初の取り組みでもあった。
ファンド規模は1億2000万円で、道銀を中心に地元企業や投資家などが投資している。
このスキームを作ったのが、北海道ベンチャーキャピタルの松田一敬社長だ。松田さんは山一證券の出身。札幌駅北口に札幌ビズカフェの設立にも関わってIT集積の呼び水を作ったことでも知られる。
その後、松田さんは東京以北で唯一、しかも地方のベンチャーキャピタルとしては最大規模とされる北海道ベンチャーキャピタルを設立、道内企業を中心に約40億円の投資事業を行ってきた。
レオニーファンドは、松田さんの新たな地域振興策でもあるのだが、前出の映画通の経営者が言うように興行的成功は難しく、投資回収が滞る可能性は高い。ファンドの組成という新しい試みの評価は別にして、投資モデルとしての価値がどう出てくるか。
レオニーファンドに象徴されるように、道銀と松田さんの関係は濃く、北海道ベンチャーキャピタルは道銀キャピタルという揶揄する声もある。松田さんは、山一證券でロンドン勤務をしたことがあるが、その時の出来事を巡って証券金融界では松田さんと距離を置く向きもある。
そんなことから、松田さんと道銀の近すぎる関係に危うさを指摘する関係者もいる。
松田さんの名刺入れは、いつもパンパンに膨れ上がっている。名刺交換した人たちの名刺が幾枚も入っているようだ。時代の先端で商機を探る人物の意外なアナログ志向が顔を覗かせている。
『レオニー』が成功するか、失敗するかはまだ先でなければ分からないが、ファンドはまさに先が予測できないアナログの世界。パンパンに膨れ上がった名刺入れは、松田さんにとってファンドの難しさを癒すための代償行為なのかも知れない。
(写真は、松田一敬さん)

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