《みぞはた・ひろし》1960年8月生まれ、京都市出身、56歳。85年3月東大法学部卒、同年4月自治省(現総務省)入省、85年7月から約3年間道庁地方課・財政課に出向。2002年4月大分県企画文化部長、04年8月大分フットボールクラブ代表取締役、10年1月国土交通省観光庁長官、12年5月内閣官房参与、大阪府特別顧問、京都府参与、15年4月から大阪観光局理事長(大阪観光局長)
――先程言われたインバウンドリード型の観光ですが、何が課題として浮上していますか。
堰八 インバウンドの受け入れ態勢として、案内表示や多言語対応、通訳案内士の不足、広い道内でWi―Fi環境が整っていないことなどが挙げられます。外国人の観光客は、訪れたその場でSNSを発信する人が多く、情報にアクセスするにもネットです。それなのに道内でWi―Fi環境が整備されている観光地はまだまだ少ない。
また、ニセコには海外から多くの観光客が来ていますが、受け入れ側のホテル従業員の言語の問題を含めた対応、さらに人手が集まらない問題もあります。これからもっとインバウンドが増えていくことを考えると、働く人を如何に確保するかが非常に大きな問題。もう1つ、ニセコは確かに良いですが、他にも喜んでもらえる地域が北海道にはたくさんあります。そういったところにも目を向けていただくような活動も不足しています。
移動手段の2次交通も深刻な問題です。インバウンドの当面の目標は年間500万人ですが、道内・道外の国内旅行者を含めると今でも5400万人が道内を移動するわけですから、JRはJR、空港は空港とそれぞれ個別に考えるのではなく、道内交通ネットワーク総体でどうするかを考えていかなければならない。
溝畑 受け入れ側の人材問題は深刻です。もともと観光などのサービス産業は、製造業や建設業に比べて給与は平均70%くらいで、生産性、収益性が低く報酬も他よりも低い。人材が集まりづらい業種だった。さらに今は、需要と供給のバランスが崩れてしまっており、人材の育成・確保は本当に北海道、大阪のみならず国をあげて緊急に取り組んでいくべき課題です。外国人をどう雇用していくのかなど早急に対応しなければいけません。国内人口が減っているのに、インバウンドを4~5000万人に増やしていくのはかなり大胆な施策を打っていかなければ対応できません。ここについては大変懸念しています。
堰八会長が言われたように、北海道が観光で大きく成長していくためには、空路と鉄路、それに海路をどうネットワークしていくかが課題になると思います。しっかりとインフラを整えないと運ぶ手段がなくなってしまいます。仮に鉄路が消えると、そこに人が住まなくなって観光資源も朽ち果ててしまう。これは日本国中に起こりつつある現象ですが、北海道は一番顕著に現象として出てきつつあります。北海道の問題は、実は都府県が抱えている問題でもありますから、この問題をしっかりと真正面から捉えることが必要でしょう。
北海道百年の計という大きな決断で国を巻き込み、自分たちもある程度の負担を覚悟して、選択と集中によってどう組み立てていくかを考えなければならないと思います。大阪では、府や経済界が関西国際空港、伊丹空港の民営化という大きな決断をしました。北海道はポテンシャルがあるので、2次交通さえきっちりと整備すればニセコ以外の地も宝庫になると思います。
――空港の一括民営化は、北海道観光の起爆剤になるとお考えですか。
堰八 道内の空港民営化は、千載一遇のチャンスだと前向きに捉えています。新千歳空港では1時間当たりの離発着枠が増えますが、それでもキャパシティは満杯に近い。そういう中で500万人のインバウンドの目標を作っている訳ですから、ほかの空港をもっと活用しなければ物理的に受け入れできない。
今までのように、言い方は悪いですが、オラがマチの空港という発想ではいけない。それぞれに特色を持った空港にしつつ、それを1つの会社が経営していくことで初めて民営化の効果が発揮されます。北海道全体で、まずは民営化対象となっている7つの空港が観光や道民生活面でどうあるべきかを議論できる絶好のチャンスだと思います。そういうことを意識した民営化でなければやる意味がないでしょう。