北海道観光が新たなステージに入ってきた。インバウンド(訪日外国人観光客)がリードする形で道内の観光関連業界は、これまでにないインパクトを受け、それをバネに世界水準の観光立国に向けた基盤形成が動き始めている。そこで、北海道観光のこれからに向けて何が求められるのかをテーマに、公益社団法人北海道観光振興機構の堰八義博会長(61、北海道銀行会長)と北海道庁への出向経験もある初代観光庁長官で公益財団法人大阪観光局の溝畑宏理事長(56)に向き合ってもらった。
(写真は、北海道観光のこれからを語る堰八義博・北海道観光機構会長=左と溝畑宏・大阪観光局理事長)
――まずそれぞれの地域の観光事情を踏まえて、見えてきた課題について聞かせてください。
溝畑 観光は地域の総合的な戦略産業で、行政、住民など地域を挙げて進めていくことが大切です。裾野が広くてその波及効果も大きい。人口減少、少子高齢化の中で観光を軸にした地方創生がなぜ重要課題になっているかというと、外需を取り込んで内需を活性化する効果が一番大きいのが観光だからです。
大阪は、2010年にインバウンド(訪日外国人観光客)が約376万人でした。我々は、『東京を抜く』というスローガンを掲げて目標にしました。2015年は約716万人、16年は約941万人にインバウンドは増えました。東京との差は10年が350万人でしたが、16年は200万人に縮まっています。インバウンドの人数を増やしていくことは大切ですが、受け入れ施設やサービスなどの質が下がるとリピーターは来ないので、質を高めていく努力が欠かせません。
空港では、関西エアポートと連携をとってLCCを誘致したり、空港の入国審査迅速化のため一緒に法務省に働きかけたこともありました。空港から始まって鉄道、商店街などありとあらゆるステークホルダーが一体となってオール大阪で観光振興に取り組んでいます。オール大阪ということでは、4ヵ月に1度のサイクルで知事や市長、関西経済連合会会長、関西経済同友会代表幹事、それに私が入ったトップ会談で観光と地域振興をテーマに話し合いをしています。観光は、今まで狭い範囲でしか議論されていませんでしたが、オール大阪の主要施策にしていこうと共通認識ができました。
大阪の観光の立ち位置は、関西や西日本のハブを目指すこと。現状は道半ばで課題や懸念が続出しています。例えば、インバウンドが急速に伸びたので、受け入れが追い付いていません。Wi―Fi整備や多言語表示もエリアによって進んでいないところもあります。ガイド人材やキャッシュレス対応、病院の受け入れなどで実際にトラブルも発生しつつあります。
北海道は、日本の成長戦略である観光立国に貢献する役割が極めて大きいと思います。国内では断トツのポテンシャルがありますが、国土の4分の1強という極めて広い面積の中で、どうやって効果的に観光を産業として成り立たせるかという課題もあります。でも、北海道の人たちのマインドの良さは誇るべきものですから、観光客を受け入れる教育システムさえ作ればおもてなしの大国になると思います。なにせ開拓の歴史は共存共栄の精神、人を受け入れる包容力など“おもてなし”に必要なエッセンスですからね。
堰八 北海道の観光産業は、将来に向けた希望の星です。今後、北海道で産業として伸びるのは何かと言ったら、真っ先に観光関連産業が挙げられる。銀行員の立場でもそう思います。近年は、インバウンドがリードする形で観光客数も相当増えています。2014年度が約154万人だったインバウンドは、2015年度に約208万人と1年間で35%も伸びました。政府は、2016年暦年のインバウンド数を2400万人と発表しましたが、まだ統計が出ていないものの北海道は全国の1割で推移していますから、同じ暦年ベースで240万人は堅いだろうと思います。あるいは250万人に届いている可能性もあります。そうなると、いよいよ2017年度は300万人の大台が射程に入ってきます。
高橋はるみ知事は、2020年度にインバウンド500万人を目標にしていますから、まずはその実現に向けて全力を傾けたい。様々な課題がありますが、皆で盛り上げていくことが大事です。