「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第83回は、中標津町の「中標津町郷土館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第83回 中標津町郷土館
-根釧台地の開拓を今に伝える-
中標津町郷土館(外観)
中標津町郷土館は町役場のすぐそばにあり、1971年(昭和46年)に開館した。「町の歴史の生き証人」とも言える貴重な郷土資料、数万点を展示保管。館内の展示スペースは、右コーナーに土器・物品・小物関係、左コーナーに開拓関係及び大型品を展示している。
館内中央には、続縄文時代初頭の中標津町指定文化財「蛙意匠の土器」が置かれている。両生類の意匠がある土器は、世界的にも希少である。その先に、先史・縄文・続縄文・擦文時代の土器及び、大野遺跡から発掘された出土品を展示が並ぶ。近くには、森林伐採に使用した鋸や中標津製材の看板、旧式のレジや卓上計算機等が展示されている。
「今も残る昭和初期の開拓景観」と題するコーナーは、松野傳(まつのつとう)及び北海道農事試験場根室支場に関わる展示である。試験場は1910年(明治43年)に開設された。1927年(昭和2年)より、20年間で10億円投入して、釧路川以東の道東地帯に至る大原野の拓殖計画が進られた。松野は入植直後の様子を、「原野の真只中に位置し、場鉄と称する植民鉄道がある許りである。戸数28戸、電灯もなければ、医者もなし。いや驚くべき、原始的部落である。」と述べている。農事試験所は当時としては珍しい鉄筋コンクリート造りだった。
すぐそばに、明治から昭和にかけてのレトロな日用品や玩具、カメラ等の他、歴代天皇の肖像画の掛軸をはじめ、戦時下の展示物など、いずれも近隣住民からの寄贈によるものである。
中央の展示ケースは、JR標津線関係の展示物が並ぶ。当時の切符や準急らうすの手作りヘッドマーク、標津駅の写真等が展示されている。標津線は1933年(昭和8年)に開業した。標津~根室標津間の69.4㎞と中標津~厚床間の47.5㎞からなる全長116.9㎞の路線を指す。赤字により、1989年(平成元年)4月30日に廃止となった。かつて標津線を走った蒸気機関車が、郷土館の前に置かれている。
画像1:前はJR標津線の展示物、右壁は戦時中の写真
別の展示ケースは、1990年(平成2年)に起きた2つの大きな出来事をテーマにしている。1つは、中標津高校の夏の甲子園初出場。甲子園の土やペナント等が並んでいる。2回戦(1回戦はシード)で、星林高校(和歌山)に延長の末10回、4対5で惜敗した。同校は甲子園出場経験の高校では、最東端に位置する。もう1つは、中標津空港のジェット化。それを記念する展示物と、かつて丘珠と中標津間を結んでいた時の広告物の展示もある。
また、中標津町の明治から平成にかけての103年間の歴史変遷の様子を、2万5千分の1の地図6枚を用いて説明する。開拓時に使用した木製の農機具、馬具、日用品、昭和40~50年代の家庭用品、洗濯機、テレビ、レコード、蓄音機、柱時計、さらに市街地の航空写真が見える。
画像2:左は町内の映画館で使用していた映写機
このそばには、廃校になった小学校の校章が展示されている。ピーク時に18校あった学校は、令和の現在2校になり、歴史の浮き沈みを物語る。
町内の工場で使用していた大型金庫の左には、YSー11の非常用ハッチがある。1983年(昭和58年)3月11日に、丘珠発の日本近距離航空(現在の全日空)497便が操縦ミスにより、中標津空港への着陸に失敗し、滑走路手前に墜落。乗客乗員52人が怪我をしたが、幸い死者は出なかった。その時の機体の一部が置かれている。
画像33:昭和初期に使っていた牛乳缶、右手奥にYS-11の非常用ハッチが見える
中央に置いてあるのは、酪農関係の展示物が見える。旧式のバター製造器、バター成型器、牛乳漉し器の他に、馬橇や木をくり抜いた洞木の風呂もある。
また、大型の電話交換機や、映画館で使用された映写機、大型スピーカーなどが置かれている。かつて町内には映画館は2館あったが、今は根室振興局全体で1館も無い。
本館から約1.5㎞離れたところに、緑ヶ丘分館がある。建物は1928年(昭和3年)に建設された旧北海道農事試験場根室支場陳列館で、農機具や馬具が並んでいる。2009年(平成21年)、国の登録有形文化財に指定。
利用案内
住 所:〒086-1164 中標津町丸山2丁目15番地
電話案内:0153-72-2190
開館時間:10:00~17:00(3月~4月)
9:00~17:00(5月~9月)
9:00~16:00(10月)
10:00~16:00(11月~2月)
入 館 料:無料
休 館 日:月曜日、祝日の翌日、年末年始
アクセス:中標津町交通センターからバスで「中標津役場前」下車。徒歩の場合は、約15分。
付近の見どころ
中標津町丸山公園
標津川の旧河川敷地を利用して造られた公園で、桜の木が200本あり、 花見の時期になると美しく咲き誇る。園内中央の展望台から、市街地が一望できる。
文・写真:大渕 基樹