北海道銀行は14日、10月1日に100%出資で設立した道銀地域総合研究所(22人体制)の設立記念講演会を東京ドームホテル札幌で開催した。講師は、三井物産戦略研究所会長、一般財団法人日本総合研究所理事長で道銀地域戦略顧問の寺島実郎氏。テーマは「2013年への視座」で寺島氏は、2日後に迫った政治選択のポイントとして胆に銘じなければならないことや中国習近平体制の見方、米国で進み始めたエネルギー革命の世界への影響度などについて具体例を示しながら論じた。寺島氏の講演内容を2回に分けて報じる。(写真は、講演する寺島実郎氏)
2日後に迫った衆院選について、寺島氏は経済人たちが本気で考えなければいけないのは、「日本を政治好きの人たちの楽園にしてはいけないということと改革幻想からの脱却」と指摘した。
寺島氏は1994年に上梓して石橋湛山賞を受賞した『新経済主義宣言』(新潮社刊)の中で、職業政治家を削減すべきと書いているが、18年前と現在もその訴えに変化はないと強調。
「日本の国会議員は、米国の国会議員に比べて人口比で3倍いる。政党助成金を含めて直接経費だけで国会議員ひとり当たり2億円かかっている。200人を減らせばどれほど大きな効果が出てくるか」と語り、政治で飯が食える日本は議員定数の削減に自ら血を流すことに手を付けない体質になっているとした。
国会議員の一方で市町村議会議員の数は、この10年間で大きく減っている。「地方分権と行政改革の目的から全国で市町村合併が進み、その結果1988年からの10年間で市町村議会の議員数は2万5000人減った。市町村合併は必ずしも良いことばかりではないが、政治で飯を食っている市町村議会議員を減らしたのは意味のあることだった」と語った。
寺島氏は、米国の地方議員はPTAの役員に準ずるようなもので、よほどの志と地域に貢献しようという思いが強くなければ務まらないと述べ、市長を務める知人の米国人は自分の子供の教育費が嵩むというので夜にガードマンのアルバイトをしている例を紹介、「地方議員はそういう職業。国会議員も例えば州ごとに上院なら2期、下院なら4期というように制限を自主的に設けて政治で飯を食えないようにボトムラインを設けている」と訴えた。
日本は政治で飯が食えるため、政治好きの人たちによる改革幻想に振り回されてきた過去があると言及、「経済人は、改革幻想という目くらましにそろそろ厳しい問題意識を取り戻さなければならない。この20年間を振り返っても、政治改革は選挙制度の手直しだけに終わり、行政改革として行われた省庁再編は国家公務員制度に手を付けなかったから風船のようにこっちを縮めれば向こうが膨らむ如く何の変革にもならなかった。小泉構造改革で世の末のように絶叫して進めた郵政民営化は、ベターであったがマストではなかった。そういうことに延々と付き合わされて元の木阿弥になっている」としたうえで、「3年前の大興奮の元で政権交代した民主党はいつの間にか第二保守党になってしまい、自民党が本来的に主張してきたこととどれだけの差があるのか首をかしげざるを得ない。さらに、地方分権が大事だと言っていた人が国権主義者みたいな発言をする人たちと一緒になった第三極の登場。政治思想の根幹が全く相いれない人たちが一緒になって訳が分からない状態になっている」と述べた。
政治で飯が食える政治好きの人たちに、次から次に振り回されてきたという経緯を踏まえて寺島氏はこう結論づける。「政治改革の根源的な理想は、政治を極小化すること。政治で飯を食う人がいなくてもしっかり回る仕組みを作ることが政治改革として一番大事だ。私は無政府主義者でもなんでもないが、そういう所から鍛えられてくるリーダーを日本はしっかり作らないとだめだ。政治という選択に向き合う時に、このことは視界に入れておくべき大切なポイントだと思う」
次回は、寺島氏が見る習近平体制の中国と米国のシェールガス、シェールオイル革命が世界にどういう影響を及ぼすかについての論点を紹介する。