寺島実郎・日本総合研究所理事長は30日、札幌市のかでる2・7で「3・11の教訓~日本創生の転機として」をテーマに講演した。道と財団法人北海道建設技術センターが主催した「北海道の防災を考える講演会」の一環。寺島氏は、「防災力を高めるには経済・産業を強靭にしておかなければならない」として、北海道はバイオリファイナリーの拠点や外国人を惹き付ける環日本海の情報集積拠点になる視点の必要性を説いた。そのうえで、「北海道そのものが日本の防災拠点になるくらいの構想力を持つべき」と訴えていた。以下、寺島氏の講演骨子を抜粋する。(写真は、講演する寺島実郎氏)
 
「3・11の災禍を日本創生の転機にしなければならないが、その中での北海道の位置づけをどう考えるか。日本の貿易構造はこの20年で大きく変わったが、強靭な経済・産業がなければ防災の力は出ない。日本の輸出比率は大中華圏で3割を超え、アジアが5割を占める。そのことが北海道にもヒタヒタと影響を与えている」
 
「苫小牧沖は、アメリカと中国の海上輸送ラッシュ。釜山が海上輸送の世界的拠点であり日本海側の港湾に物流がシフトしている。北海道に物流を生み出す産業を作ったら戦略的な位置を占める。そうなれば苫東地域が北海道の戦略上重要になることに気づかないといけない」
 
「再生可能エネルギーには、太陽、風力、地熱、バイオマスとあるが、太陽、風力はそんなに複雑ではないし効率を上げるだけ。北海道は農業、食料に優位な経済産業構造をもっており、バイオに深い見識と戦略が必要だ。北海道は今後、バイオケミカル、バイオリファイナリーの拠点になる可能性がある。これまでは石油をクラッキングしてナフサをつくりそれから石化製品を作っていたが、それをバイオ由来のリファイナリーに転換すれば、世界のパラダイムを変える」
 
「太陽、風力、地熱は大事だが、電源供給の文脈に留まる。しかし、バイオは新しい産業を創生する可能性がある。ガレキや廃木材からバイオ抽出ができれば再生可能エネルギーの視界が広がる。北海道は豊富なバイオ原料となる食、農業をベースに持っている。新しい文脈の中でバイオ産業を捉えなおすべきだ」
 
「日本は訪日外国人3000万人を目標にしているが、そのうちの8割はアジアから呼び込むことになる。大中華圏の人を当てにした観光立国になるわけだが、いつまでも秋葉原や温泉で観光立国と言えるのか。骨太の観光立国への構想力がいる。そのためには情報の集積が必要だ。そこへ行かねば情報が入らないというように。北海道は、環日本海の情報ベースキャンプになるとかロシアの情報は北海道に行かないと入らないなどの視点を持つべき。室工大、帯畜大、北見工大、北大低温研など北方圏の技術や情報は豊富にある。それを海外から惹き付ける力にしていくことが必要だ」
 
「カネと情報を持った人を惹き付けるものがないと観光立国と言えない。その意味で、シンガポールは示唆的だ。淡路島と同じくらいの面積で北海道と同じくらい600万が住む。目立った工業生産や資源がなく北海道よりも条件が悪い。それなのに1人当たりGDPは4万9000ドルと日本よりも多い。これまでは工業生産力が強い国、豊かな国だったが。シンガポールはないないづくしなのに、研究開発、バイオ、ITから付加価値生み出している」
 
「シンガポールは、大中華圏から医療ツーリズムを受け入れることにも積極的だ。一昨年には67万人が医療ツーリズムでシンガポールを訪れるなど先行モデルだ。空港には、LCCの専用ターミナルもある。カジノもあってバーチャル国家の先行モデル。目に見えない部分で国が豊かになることを示している。すなわち技術、システム、ソフト、サービスといった創造力で国が豊かになる。それを考えれば、北海道には大いなる可能性がある。日本に残されたフロンティアだ」
 
「防災面では、北海道そのものが日本の防災の拠点になるくらいでなければいけない。防災対応能力の強化には産業力、経済力をきちっとしなければならない」
 
「阪神淡路大震災や以降、3・11まで災害対応能力の進化が見られる。ポイントは、コンビニと携帯、つまり情報インフラが有効ということだ。コンビニは全国4万軒を超し情報産業そのもの。生ものを店頭に置いて回転させることは情報産業であり、基盤インフラに位置づけられる。コンビニは防災拠点として安定的生活のインフラになっている。携帯も1億台を超え情報インフラとして重要。情報基盤をどう作っておくかが防災の鍵になる」
 
「避難場所は、まだ小中学校などの体育館を使っており避難環境は悪い。例えば、道の駅を防災拠点にして広域分散のベースキャンプにする発想がある。100人分くらいのカプセルホテルのようなものをコンテナで空輸できるようにして風呂やトイレの水周りもしっかりしておく。機動的に対応できる技術を駆使したベースキャンプ作っておくことが大事」
「内閣府は、3万㌧の医療船2隻作る方向だが、この医療船で被災地に日本やアジアの被災地にアクセスする体制も防災の進化」
 
 最後に、寺島氏は自身の団塊世代の反省を込めてこう締め括った。
 
「我々団塊の世代は、究極悲惨な思いをしたことがない。右肩上がりの経済を享受してきた世代だ。きれいごとの時代を送ってきた世代と言い換えても良い。『絆
とか『コンクリートから人へ』とか綺麗な言葉が好きなのもこの世代の特徴。しかし、3・11はコンクリートが命の道になることも分かった。単純な言葉で回答を出してはいけない。科学的、技術的にどう問題を解決していくかを考えることが大事だ」
 



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