企業にとってコスト削減は経営の大きな要素だが、企業が購買する資材価格等の削減をコンサルしている購買戦略研究所(本社・東京都千代田区)の古市勝久代表取締役は、「コストを下げたら下げた分だけ購買担当者を褒める文化が必要」と強調する。オーナー経営者の場合は、コストが下がるとえてして今まで何をやっていたのかと担当者を責める傾向があるが、「コスト削減プロジェクトの最大の失敗要因は、この褒める文化が少ないこと」と古市氏は警鐘を鳴らす。15日、札幌市内で開催されたSATOグループのオープンセミナーで古市氏が講演した。(写真は、講演する古市勝久代表取締役)
 

 購買戦略研究所は、2005年5月に設立された企業向け購買支援サービスの提供会社。約600社の支援を実施、GMS(大規模小売店)やドラッグチェーン、家電量販店などが取扱い上位50社の7割を占め、売上げは2010年度実績で10億5000万円。
 
 古市氏は、「3年間のプロジェクトでコスト削減に取り組む企業が多いが、6ヵ月~1年間で平均20%は削減できる。今までで最も悪かった削減率でも16%。単価、数量の両方が下がるが、コストが下がると品質も下がるのではないかと疑問を持っている人もいると思うが、チラシや清掃といった業務委託系はコストが下がりやすい」と述べ、コストを下げても品質は下がらないことを訴えた。
 
 古市氏はコスト削減の象徴事例としてコピーを取り上げた。コピー用紙そのもののコストを下げるのは難しいが、リースしているコピーのカウンター料金は下げることが可能と言う。
 
「コピーのカウンター料金はモノクロならA3とA4は一緒で1枚5円くらいが中小企業には多い。当社のクライアントは約600社あって、1兆円の売上げがある企業が14社ほどある。その中の一つである生保会社は全国で4000台のコピー機を使っているが、大手鉄道会社や大手金融機関などのカウンター料金の相場は1枚が中小企業の10分の1。当社は、コピー機が3台しかないが1枚0・8円だ。なぜこういうことができるかというと、コピー機を4000台持っている企業と交渉して共同購入でカウンター料金を一緒にしてもらったから。電話回線や清掃などの外部発注業務は他社との共同購買でコスト下げられる」と強調した。
 
 さらに古市氏が紹介したのは電子入札と10社見積もりルール。電子入札は競り下げ方式を採用すれば平均20%のコスト削減が可能で、パチンコ、食品スーパーで実行されているという。見積もりの10社ルールは、これまで3社から見積もりを取っていたものを10社に増やすと、平均10%削減率は当たり前に出てくるというもの。「建築資材や紙製品、包装資材、ビルメンにはそういう例が多い。知っている企業や付き合いのある企業ではないところも探して10社の見積もりを取ると、高いところと安いところでは3倍のコスト差が出てくる。平均2割下がるのは不思議でもなんでもない。むしろ硬めの数字だ」と語った。
 
 見積もりの10社ルールで大事なことは指値を示すこと。「希望値は必ず示すことが大切。指値効果と言っていくら以下にしたいかを示せば、それに近い見積もりが出てくる」(古市氏)
 
 最後に古市氏が購買改革を成功させるために最も必要なことは、コストを下げたら担当者を褒めることだとした。「何%下げたら担当者に高い評価を与えるか。3%、10%、30%と削減した場合。一般企業なら10%下げると一番褒められるデータがある。コスト削減プロジェクトでのNGワードは、『これまで何だったんだ』という言葉。オーナー経営者はついつい口に出してしまうが、これが失敗する最大の要因だ。私はプロジェクトを受注したら経営者と必ず会って『下がったら下がっただけ比例関係で担当者を褒めてください』とお願いする。削減は利益だという社内コンセンサスが必要で、それがないとコスト削減のストップ要因になる」と語った。
 
 古市氏は、北海道の企業なら旅費交通費の削減が可能とし、「LCC(格安航空会社)や5日前ルールを導入して予定されている出張などでパッケージツアーの商品を購入すれば、フルサービスキャリアで往復するよりもコストは安くなる。私はこれを使って北海道に来ることが多い」と自身の例を紹介していた。


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