札幌市民にとっても青天の霹靂である東京五輪のマラソンと競歩の札幌開催案。誘致をしていない中でのIOC(国際オリンピック委員会)と組織委員会による突然の指名に行政や関係機関、市民に混乱と困惑、期待と歓迎の斑模様が広がっている。(写真は、マラソンコースの発着点に浮上している札幌ドーム)
札幌開催案は、IOCが中東ドーハで先に開催された世界陸上で女子マラソンや男子50㎞競歩で4割の棄権者が出たことから東京の暑さを懸念したためだ。IOCバッハ会長による突然で唐突な札幌開催案の表明だっただけに、東京開催の準備を着々と進めてきた選手をはじめ都や都民、陸連関係者、チケット購入者などに衝撃が走っているのは想像に難くない。
ただ、選手第一に考えれば札幌への変更は受け入れざるを得ない。幸い札幌では国内唯一の夏のフルマラソン大会である北海道マラソンで33回の実績があるほか、2030年の札幌冬季オリンピック・パラリンピック誘致活動でIOC、JOC関係者との結びつきも強い。五輪担当相も北海道出身の橋本聖子氏という偶然も重なっている。札幌ドームでのW杯サッカーや現在行われているW杯ラグビーの開催経験もあり、マラソン、競歩の東京代替地としての器は整っている。
しかし、実際に開催するにはコース設定や経費、警備、宿泊など何百、何千という調整が必要になるだろう。何よりも国民世論が後押ししなければ札幌開催はおぼつかない。
こんなときこそ求められるのが行政トップの見識と行動力だ。予定調和ではない局面の発言にこそ、その人物の本質が出てくるもの。その伝で行けば小池百合子都知事の腹いせともとれる「北方領土でやったらどうか」の無責任発言は小池氏の本質をよく表している。秋元克広札幌市長は行政出身者らしく安全発言に終始しているが、もっと市民の期待と不安を汲んだ心に届く発言をすべきだ。もちろん小池発言を厳しく批判する度量も見せてほしい。
市民感覚で言えば、世界の一流選手を間近に見ることができることへの期待の一方でテロ対策や交通渋滞など市民生活への影響、開催経費の分担、準備不足や宿泊施設の不足によって悪印象が広がることへの懸念などがある。
現時点で市民の多くは歓迎しつつも無条件に賛成という気持ちにはなれないようだ。30日のIOC調整委員会で札幌開催の有無が正式に決まるが、東京と札幌が絆をより深める結果になることを望みたい。