札幌市発注工事での汚職事件で競争入札妨害の罪に問われた岩田地崎建設の元第一営業部部長、川上尚人(51)の初公判が20日午後4時から札幌地裁805号法廷で行われた。川上被告は、起訴事実を認めたが、被告人質問から行政と土建業者の断ち切れない関係や受注環境が厳しくなる中で、業者側の受注獲得に向けたあせりが不正なことにも手を染める心の迷いを生じさせる一因になっていることも明らかになった。(写真は、札幌地裁)
起訴事実は、川上被告が昨年11月の札幌市発注の道道小樽定山渓線四ツ峰トンネル復旧工事の一般競争入札で、市契約管理課の元係長小泉健治被告(50)から価格情報を入手し同社が落札できるようにして、公正な競争を妨害したこと。
川上被告は起訴事実について「間違いありません」としたうえで、「受注競争が激しくなる中で受注を積み重ねないといけないという私なりのプレッシャーがあった。公共工事の最低制限価格について可能性のある情報は欲しかった」と述べた。
検察側は、岩田地崎建設が3年前にも役員が絡んだ同様の事件があったことに言及し、「岩田地崎は競争入札妨害をする会社なのか」と指摘。続いて、「(不正に入手した情報で)最低制限価格の小数点第二位まであわせた85・97%の価格を提示することに、社内で議論はなかったのか、会社ぐるみではないのか」と被告人を追及。
川上被告は、「応札価格は私の裁量で決めることができた。会社ぐるみではなく、私が積算の部隊にこの価格で落札しようと、誘導した価格」と答えた。
梶川匡志裁判官は川上被告に「何でこんなことに手を出そうと思ったのか。会社が得をすると思ったのか。会社は『悪いことをしても受注を取れ』と言ったわけではないでしょう。受注してもばれないと思っていたのか」などと質問。
川上被告は、「昨年4月に部長に昇格して気持ちの面で責任を感じプレッシャーがあった。どうしても受注が欲しかったが、その気持ちが間違っていたことに尽きる。3年前の事件もあったのでコンプライアンスの勉強会をするなど社内で活動していたのに、このような事態を起こし反省している」と答えた。
さらに裁判官が「不正に情報入手することが1回きりなら気の迷いということもあるが、4月から11月までの半年間で同じようなことがあったわけですね。落札できたのは1回きりで自腹で商品券も渡しているが、メリットがないから途中で辞めようと思わなかったのか」と問うと、川上被告は「関係を辞めようと切り出すことはできなかった。情報が欲しかった」と述べた。
川上被告は、被告人質問で「土建業者の性(さが)」としいう言葉を使った。どういうことか――公務員には逆らえない、役人の言うことには従う生き方をしてきた――川上被告はこう表現した。
裁判で検察側は懲役1年を求刑。弁護側は、既に相当の社会的制裁を受けていること、再犯可能性がないこと、小泉被告の誘いに応じてしまったもので私利私欲から出たものではなく個人的利得もないことなどから罰金刑が相当と刑の猶予を求めた。弁護人は検事出身で拓銀刑事裁判の弁護人も務めた和田丈夫氏ら2人。
判決は、6月21日午前11時に言い渡される。