アークスグループの一員として5年目を迎える東光ストア(本社・札幌市)。グループ入りして以降、初の社長交代で5月に就任したのが楠美秀一氏(60)だ。札幌東急ストアの時代から主として生鮮を担当、楠美氏の視線は現場第一主義にある。かつて品質の東急と呼ばれた店舗を創りあげてきた原動力にもなった楠美氏に新社長就任の抱負と今後の戦略をインタビューした。(写真は、楠美秀一社長)
楠美氏は、1978年秋に24歳で定鉄商事(現東光ストア)に中途入社した。その前年に定鉄商事の5店舗目としてオープンした北栄店(札幌市東区)が振りだしだった。定鉄商事に入社する以前は、スポーツ用品店のダイワスポーツに勤務。小さいころから学生時代まで野球をやっていた関係から縁があって就職。そのころダイワスポーツは北海道で3番目くらいに大きなスポーツ用品店だった。
しかし当時は、食品スーパーが大きく発展を始めたころ。楠美社長は今後の成長が見込めるのは食品スーパーだと考え転職を決めた。
入社後は北栄店の青果担当として現場に4年、その後青果バイヤーを7年、店長は3店舗経験した。最初の店長経験は、平岸ターミナル店(札幌市豊平区)。地下から地上に移転新築した際の初代店長で、それから1年後には平岡店(同市清田区)オープンに伴い初代店長として赴任、さらにその1年後には豊平店(同市豊平区)店長として2年勤務した。その後は店舗運営部長や北広島市大曲の生鮮センター(現在は売却)青果部長、本社の水産部長を経て2001年6月に取締役農産部長、08年5月同商品本部長、09年6月同営業本部長に就任。その年に札幌東急ストアはアークスグループ入りし、12年10月に常務販売統括部担当兼販売促進ゼネラルマネジャー、13年5月に専務、今年5月社長に昇格した。
72年に定鉄商事が誕生して以来、歴代社長はじょうてつや東急ストア本体から就任していたが、楠美氏は初の定鉄商事出身の社長になる。
(札幌市白石区の東光ストア本社)
――5月の社長就任から4ヵ月が経ちましたが、あらためて抱負を聞かせてください。
楠美 当社には札幌東急ストア時代から培った生鮮食品を中心としたお客様の信頼がベースにありそれが今も柱になっている。アークスグループに入ってからもこの方針を変えずに運営してきた。今後も踏襲し一層強化していく方針だ。アークスグループになり、仕入れ面やカード戦略、システム統合などメリットは大きい。加固正好前社長(現副会長)の方針もあってこれまでは会社の体力強化を中心に経営基盤や財務体質を改善してきた。このため大型投資は行わず、この5年間は年数を経た店舗の改装を中心に行ってきた。今年の4月には旗艦店の平岡店を改装したことでひと通りの改装は終えたので来年度以降に新たな出店をしたい。
――アークスグループに入ることによって当初は東急時代のイメージが変わり客離れの懸念もありましたが…。
楠美 最初の1年は営業政策や商品政策を変えていなかったが、お客さまからいろいろな声があって現場でも不安の声は大きかった。カードも今ではメリットが出ているが、東急のTOPカードとアークスのRARAカードを両方持つお客さまが多く、最終的な切り替えに1年間が必要だった。数字的にも厳しかったが徐々に回復し、お客さまの理解が浸透して順調に推移してきたのがこの1~2年だ。2013年度は、売上げが470億円弱、経常利益率は3%弱、13億7000万円とグループの中でも良い形になった。
――アークスグループと共同仕入れ会社のシジシー(CGC)に加入したメリットを整理するとどうなりますか。
楠美 以前の東急TOPカードと比べてアークスRARAカードの会員数は全く規模が違い、販促効果のメリットはとても大きい。総務経理等の後方支援部門もアークス本体で一元化していく方向で、当社単体での本部コストはスリムになっている。また、CGCに加入したことで主力商品の量販化が基本戦略のPB(プライベートブランド)を導入できるようになり価格対応力がついたほか、NB(ナショナルブランド)の共同仕入れによるコストダウン効果もある。CGCのPB売上げは、前期で約23億円だ。
――アークスグループでエリア競合しているのが、札幌市内のラルズと東光ストアですが、どう棲み分けしていますか。
楠美 生鮮の品揃えやグレード感で違いがあると思う。品揃えの幅も同規模店舗なら当社の方が多いだろう。24時間店舗や小型店ではデリカ商品の外注比率が高いが、店舗数の8割くらいはインストア加工で対応している。惣菜は自社工場があり巻物関係、一次加工商品を生産しているが弁当、寿司などは店内加工の比率が高い。これがメリットでもありデメリットでもある。今後は、人手不足などもあってインストアの比率を抑えて行かざるを得ないが方向性を検討したい。
――新規出店は札幌市内に限定ですか。
楠美 道内のエリアごとにグループ会社があるので私どもの役割は、札幌圏の中でも札幌市内が主体になるだろう。直近の新店は7年ほど前の南郷通18丁目店。大型店としては10年前の大谷地店(厚別区)が最も新しい出店だ。全28店舗のうち10店舗くらいは地下鉄沿線の店で中規模の面積。その規模を主体にやってきているため、300坪とか500坪クラスの中規模店で新規出店したい。閉鎖店舗は今のところ予定していない。
――業態として何か新機軸は。
楠美 それはないが、10店舗が地下鉄沿線店舗なのでコンビニとの競合が激しい。生鮮では当店の優位性はあるものの惣菜を中心とした関連商品をさらに一層強化するとともにサービス面での充実を部分的に行う。CGCのシステムを使った銀行ATMの設置を数店舗で試験的に実施し、公共料金などの収納代行も行う。また、サービスカウンターでのホットコーヒーや揚げ物の販売も行っており効果を検証したうえで展開を考える。
――消費増税後は売上げが鈍化していますが、8月は各社盛り返しました。今後の売上げ見通しはどうでしょう。
楠美 垣根のない競争なので厳しいのは間違いない。横山清アークス社長は当社の会長でもあるが、『増税の影響は楽観視してはいけない、より厳しくなる』と危機感を持っていた。やはりその通りの状態になっており、この状態はしばらく続くだろう。食品スーパーのお客さまは、DS店と非DS店の二極化が鮮明になっており、ますます二極化していくと考えている。当社は生鮮中心にきちっとしたものを売り続けることでお客さまに応えていく。ただ、価格を含めて量目や売り方に工夫を加え買い易さを高め回転率をあげていくことが課題だ。
――食品スーパー市場の今後についてどう見ていますか。
楠美 少子高齢化は全国的進んでいるが、北海道・札幌の高齢化のスピードはより速い。楽観視するわけではないが、私どものお客さまは50~60代の中高年齢者の比率が高い。そういう年代層に向けた商品政策は大きなポイントだ。調理した魚など手を加えた商品の比率は高まっておりこうした中高年齢層に向けた付加価値商品が主流になってくるだろう。
――ところで、売上高500億円は目前ですね。
楠美 直近ではひとつの課題だ。アークスグループの中で我々の良さを出していけるのが八ツ岳経営の大きな魅力だと感じている。
(地下鉄ターミナル店の東光ストア南郷13丁目店)
楠美社長は、現場第一主義を貫き週の半分は店舗を巡回する。「入社以来36年のうち半分は生鮮に携わってきたので、どうしても店舗の生鮮売場が目につく」と笑う。数字だけでは見えてこないものが現場に行けば見えてくると言う。競合店にも足繁く通う。「ある競合店はかなり攻撃的な販促をするので、手を抜くと持って行かれてしまう。食品スーパーはそういう戦いなんですよ」と真顔になって答えていた。