6月に安倍政権が決定する日本再興戦略に向けて地方版成長戦略を議論する北海道産業競争力協議会の第3回会合が19日、京王プラザホテル札幌で開かれた。この日は、これまでの2回の会合や道内各地域で開いた意見交換会を踏まえて事務局の北海道経済産業局と道庁が「北海道産業競争力強化戦略案」を提示したが、出席した委員からは「目指すべき目標が書かれていない」「ロードマップがない」など厳しい意見が相次いだ。急先鋒だったのは、近藤龍夫北海道経済連合会会長。近藤氏は何故強い調子で批判したのか。(写真は、北海道産業競争力協議会の第3回会合=19日午後4時過ぎ)
道産業競争力協議会(委員長・山口佳三北大総長)は、官民で北海道の成長戦略を議論し、安倍政権の日本再興戦略の地方版として官民一体で北海道の経済浮揚を進めていく成長シナリオを策定する役割を持つ。これまでに11月と2月の2回、全体会議を開き道内各地域での意見交換会も行ってきた。3回目となったこの日は、これまでの議論を踏まえて「食と観光」を2本柱に20年後を見据えた持続成長に向けた強化戦略の案が事務局から示された。
この案に噛みついたのが近藤氏。「この案では目指すべき目標が見えない。藻岩山を目指すのか、エベレストを目指すのか」と一喝。近藤氏は道経連が中心になったフード特区機構が活動するにあたって具体的課題が既に浮き彫りになっている現状があるのに、その解決策を盛り込んでいないことにいら立ちを隠さなかった。
近藤氏は、「再三、東アジア販路開拓のために現地に拠点を作って欲しいと言っているのにこの案でもそのことに触れていない。『拠点形成も視野に入れて』という書き方では話にならない。行政は本気でやる気があるのか疑わしい」と道庁や道経産局に厳しく迫った。さらに観光面についても「今年度は全国で1000万人の外国人観光客入り込みが確実で北海道も100万人を突破する。政府は20年に2000万人を目指すと言っているのだから北海道は20年に200万人を目標に掲げることや26年の札幌オリンピック開催を目指すなど夢のあることをなぜ謳わないのか」と強く指摘した。
また、北海道ガスの大槻博社長も、「この案にはロードマップが抜けている。20先を見据えても短期・中期・長期に誰が何をするのか、予算はどうなのかといったロードマップ抜きでは、この協議会も単なる意見交換で終わってしまう。そういうことが書かれていないなら何のための会議であり何のための強化戦略なのかと言いたくなる」と近藤氏に負けず劣らず批判のトーンを強めた。
2時間の議論の結果は、案の抜本的な書き換え。この日、東京で開催された日ロ投資フォーラムに出席した高橋はるみ知事は1時間以上遅れて協議会に参加。前半の白熱した展開を事務局から聞かされ、素案をさらにバージョンアップさせていくことを委員たちに約束。また、協議会で決めた方針を定期的にフォローアップしていく会を設置することも示した。
山口委員長は、「案には若干ではない修正が必要だ」と述べたうえで、「最終的なとりまとめは委員長の私に一任してほしい」と語って会合を終えた。
3回の協議会で明らかになったのは、協議会を主催する道庁や道経産局と民間との課題に対する向き合い方の違い。「食と観光」を基本に据えることでは官民が一致していても方法論や目標では一致していないことが分かった。さらに課題を具体的に落とし込むシナリオづくりでは官に予算の壁があることも障害になっているようだ。しかし、協議会の成果として言えるのは、こうしたズレをお互いに共有できたことであり、言いたいことを本音で言い合える場となったこと。中身のある議論が繰り広げられたことは事実であり、メリハリのついた北海道産業競争力強化戦略の策定とそれを実行していく官民双方の覚悟が今後問われることになる。