目に飛び込んできたのは、高さ20~30mはありそうな建設中の建物だった。マンションのようにも見えるが、この場所でマンションはありえない。なぜなら、ここは苫東の一画だから。近づいていくと、「えっ、ここでそれをつくるの?」と、びっくり。考えもしなかったものの正体は……。(写真は、苫東柏原地区の北側に出現している建物)
(写真は、「ベンチャーグレイン苫小牧蒸溜所」の建設現場)
東京・山の手線内側の1・7倍の広さがある日本一の産業地域、苫小牧東部地域産業用地(苫東)。国家プロジェクトとして造成された、苫東の分譲が始まったのは1970年代。企業誘致は計画通り進まず、開発を担った3セクが特別清算するなど、昭和、平成にまたがる負の遺産とも言われた。現在は新たな開発会社のもと、120社超が進出しているが、まだまだ未利用の土地がたくさん残っている。
そんな苫東の柏原地区北側に建設中の建物が、冒頭のマンション風の高層建物だ。更地が続く中で、建設現場特有の空気感が遠くからでも漂ってくる。引き寄せられるように近づくと、「ベンチャーグレイン苫小牧蒸溜所」新築工事の看板があった。
埼玉県秩父市に本社を置くウイスキー企業、ベンチャーウイスキー。秩父市でモルトウイスキーの蒸留所2ヵ所を操業しており、代表品種の「イチローズモルト」は、世界的なウイスキーコンテスト「ワールド・ウイスキー・アワード」で、世界最高賞を6回受賞している。
そんなウイスキーメーカーが、苫東を選んだのは、高品質な水と、港や空港に近い交通環境、そして広大な土地ということらしい。総面積約6・6haの敷地に、ベンチャーウイスキー100%出資子会社、ベンチャーグレインがトウモロコシなどの原料を発酵・蒸留する設備とウイスキーを長期間熟成させる貯蔵庫などの建設を進めている。高さ20mを超える建物は、どうやら貯蔵庫のようだ。操業開始は2025年春、2028年春には、ここで生まれたウイスキーが一般に流通するようになるという。苫東とウイスキー、かつてならそういう取り合わせは考えもしなかった。令和になった今、苫東は確実に変わりつつある。