北大総長解任取り消し訴訟、札幌地裁が名和氏の請求棄却

社会・文化

 北海道大学前総長の名和豊春氏(69)が、2020年6月に文部科学大臣から総長解任処分を受けたことを巡って、名和氏が国と北大を相手に解任処分の取り消しと約1466万円の損害賠償を求めた裁判の判決が、2024年3月13日、札幌地方裁判所であった。札幌地裁の右田晃一裁判長は、名和氏の主張をいずれも棄却した。(写真は、判決後に会見する名和豊春氏)

 名和氏は、2017年4月に北大総長に就任したが、翌年9月、大学の顧問弁護士らから、名和氏にはパワハラの公益通報があるとして、総長選考会議が調査委員会を設置。職員からの聞き取りにより、威圧的な言動など30件の非違行為が総長選考会議で認定され、同会議は2019年7月に文科相に解任を申し出た。ほぼ1年後の2020年6月、文科相は30件のうち、28件を非違行為と認定して名和氏を解任した。

 名和氏は、2020年12月に国と北大を相手取り、①解任手続きに瑕疵(かし)がある②解任事由の「その他総長たるに適しないと認めるとき」に該当しないにもかかわらずそれを認定したこと③判断過程審査に裁量権の逸脱・濫用があること④比例原則違反による裁量権の逸脱・濫用があることーーを主張して提訴していた。

 今回の判決で、右田裁判長は、「解任申し出の手続きに瑕疵は認められず、違法であるとは認められない」、「認定した名和氏の非違行為及び評価は正当である」とした。さらに、「処分認定事実の内容は、被告職員に対して威圧的にふるまう、過度に叱責する、合理的な理由もなく予定をキャンセルする、不必要な業務を指示する、研究者倫理に反し著作権を侵害しかねない指示をする、合理的な理由なく前言を覆す、入札の公正さを害するような言動に及ぶ、職員倫理規定に違反する、対外的にも尊大な態度で接する、など、多岐にわたっており、また、被告北大の職員を困惑させるとともに、被告北大の信用を失墜させるものである」、「総長選考会議規定18条4項所定の『その他総長たるに適しないと認められるとき』に該当すると判断した評価は、正当ということができる」と判断した。

 また、「原告の非違行為の件数及び内容に照らせば、解任処分による原告の不利益が大きいことを踏まえても、総長選考会議が『その他総長たるに適しないと認められるとき』に該当すると認めた判断が、比例原則に反するものとはいえず、解任申し出に裁量権の逸脱・濫用は認められない」とした。

 この判決に対して、名和氏の弁護団の1人である小野寺信勝弁護士は、「調査委員会で名和氏に反論の機会が与えられなかったことや、証拠関係の音声データの謄写が許されなかったことなど、解任手続きが違法という主張をしたが、裁判所は『名和氏に反論の機会はあった』として手続きの違法性はないと認定をした。また、28件の非違行為に事実の認定、評価に誤りがあるという主張をしたが、裁判所は28件すべてについて、北大の認定した事実と評価には誤りはないという判断をした。判決の内容は、いずれもほぼ北大の主張をそのまま認定しており、我々としてはとても受け入れがたい内容だ」と判決後の記者会見で話した。

 同じく弁護団の佐藤博文弁護士は、「『その他総長たるに適しないと認められるとき』という総長選考会議の解任条文について、その基準は具体的にどういうことなのかを、突き詰めて考える必要がある。それに向けた調査と審議が適正に行われたのか。労働事件では懲戒解雇のようなものであり、不利益を受ける名和氏に対して、きちんとした資料を見せ、これに対してどういう弁明をするのか、それを踏まえたうえで解任の審議をしなければならないのに、それが行われていなかった」とあらためて主張した。

 名和氏は、「多くの支援者に傍聴していただいたが、残念ながら皆さんが望んでいた結果にならず申し訳なかったというのが本心だ。私は(非違行為を)やっていないということで証拠を提出したり、証言をしたりしてきた。それらが、一顧だにされなかったことは誠に残念だ」と話した。控訴について佐藤弁護士は、「判決内容を検討して、2週間の期限の間に弁護団、原告、関係者と相談して(控訴するかどうかを)決めたい」と述べた。

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