赤字が続き、飼育員も退職するため2023年8月末に閉鎖が決まっていた、苫前郡羽幌町の「焼尻めん羊牧場」が、一転、存続することになった。民間事業者が同牧場を承継、「焼尻サフォーク」のブランドを継続する。町議会の議決などを経て、同年10月初旬に新事業者による運営に切り替わる。(写真は、「焼尻めん羊牧場」)
焼尻めん羊牧場は、1962年に焼尻島の漁業者に向けた不漁対策として、町がめん羊12頭を漁業者に貸与したのがルーツ。1966年に町営焼尻めん羊牧場となり、1969年には外国産肉用「サフォーク種」100頭をオーストラリアから導入、1986年にはサフォーク種純潔生産基地北海道第1号の指定を受け、羊の種畜生産基地として重要な役割を担う一方、島の貴重な観光資源になっていた。
2008年から町は指定管理者制度を導入、民間事業者が運営してきたが、2019年に新たな指定管理の応募がなく、町営に戻った。町営に戻ってからも、人材不足で飼育員の確保がままならないほか、毎年赤字が2000万円を超えて発生。2022年9月からは、飼育員が最低限必要な3人から2人になり、2023年4月からは1人でめん羊約350頭を飼育する状態が続いた。その飼育員も8月末で退職することになり、町は存続は難しいとして6月の町議会で閉鎖を報告した。
閉鎖報道によって、道内外から30件を超える問い合わせが町にあったが、その多くはめん羊の引き取りだった。そうした中で実現可能性のある牧場承継の申し出が3件あり、町は各事業者の面談聞き取りを実施、上川郡下川町で「あべ養鶏場」を経営する東郷啓祐社長(61)個人への承継を決めた。あべ養鶏場は、JR札幌駅コンコースで自社の卵を使ったプリン「あべ養鶏場えっぐプリン」の直営売店も展開している。
町が東郷氏を選んだのは、①現地に3回入るなど引き継ぐ意欲が高いこと②養鶏事業を行っていること③町の補助金に頼らない自前経営をすること④焼尻ブランドを引き継ぎ、島民への還元を考慮していることーーなど。飼育員が退職しているため、現在は町職員が承継まで交代で、めん羊の飼育を行っている。
東郷氏は新たに「株式会社焼尻めん羊牧場」を設立、町からめん羊145頭を100万円で購入し、町から牧場(約80・4ha)の無償貸与を受ける。外国人を含めて2~3人の人員を確保し島民の協力も見込む。また東郷氏は、札幌市内に新たにレストランを開設して、めん羊の自家消費も検討する。
町は9月下旬の町議会で町有財産の無償貸与など承継に必要な議決を経て、10月初旬に正式に譲渡する。