「戦禍のウクライナに一刻も早く支援物資を届けたい」と、単身ウクライナ国境近くまで支援物資を持参した人がいる。集客支援コンサルティングや都市計画マスタープランを手掛けているモナーク(本社・東京都港区)代表取締役の末良則幸さん(62)。手渡したのは、投げ込むだけで消化できる「投てき用消火用具」2ダース(24本)。現地の支援機関担当者は、「日本から支援物資を直接持参してくれた人は初めて」と深く喜び感謝してくれたという。(写真は、投てき用消火用具をヘルプ・ウクライナ・センターの担当者アダム氏に手渡したモナーク代表取締役の末良則幸さん=右)
(写真は、ウクライナに消火用具を直接手渡した報告を行うモナーク代表取締役末良則幸さん。5月19日に行われた「隈研吾さっぽろ未来まちづくり懇話会」の報告会で)

「投てき用消火用具」をウクライナに送ろうと動いたのは、世界的建築家、隈研吾さん(67)が名誉会長を務める「隈研吾さっぽろ未来まちづくり懇話会」(事務局・札幌市中央区、名誉副会長・上田文雄元札幌市長)。この消火用具は、投げ込むだけで初期消火ができるボトルタイプで、誰でも失敗なく消化できる簡単な防災用品。建物と消火は表裏一体で、以前から同懇話会ではこの消火用具に関心を示していた。ロシアによるウクライナ侵攻により、建物の被害が続く中、消火用具は必需品に違いないと同懇話会は、この消火用具をウクライナに支援物資として送ることを4月中旬に決めた。

 同懇話会の相談役でもある末良さんが担当することになり、在日ウクライナ大使館と接触。以前から仕事の関係でウクライナを訪問していた末良さんは、大使館職員ともパイプがあるため話はトントン拍子で進むかと思われた。しかし、大使館職員は航空貨物としてこの消火用具を積載できないと難色を示す。1日でも早く届けたいと考えた末良さんは、手荷物として持参することを決意、機内に持ち込める2ダースを抱えて単身、飛行機に乗り込んだ。
 羽田空港からドイツ・フランクフルトに13時間かけて飛び、それからバスで12時間かけてポーランド・ワルシャワに。そこから鉄道で3時間半かけてウクライナ国境に近い町、ヘイムに着いた。ヘイムから国境までは20㎞と近く、ウクライナから脱出してきた人たちでホームは溢れかえり、戦車を運ぶ鉄道貨物も通過するなど緊迫感が漂っていたという。

 末良さんはヘイム駅から2ダースの消火用具を抱えて45分間歩き、救援物資支援機関である「ヘルプ・ウクライナ・センター」に辿り着いた。担当者のアダム氏に手渡すと、「日本から救援物資を直接届けてくれたのはあなたが初めてだ」と深く感謝された。アダム氏は「一刻を争う消火活動に大いに役立つ。センターから戦場になっている街に早速届ける」と約束してくれた。消火用具のマニュアルには現地でも分かるように英語、ウクライナ語、ポーランド語を用意した。

 5月初めに帰国した末良さんは、在日ウクライナ大使館にヘイムで支援物資を提供したことを報告。大使館職員は「サンキュー」、「サンキュー」を繰り返し、末良さんと握手した手を離さなかったという。末良さんは言う。「ウクライナには世界から様々な救援物資が届いているが、本当に必要な物資が必要としている人たちに届いているかは確かめようがない。持参した消火用具は、今まさに必要な物資の一つ。金銭的な支援も大切だが、必要なものを必要な時に届けられるようにすることが、一番の支援だと痛感した」と言う。

 続けて、「日本ではウクライナ支援の輪を広げる取り組みが十分ではないと思う。例えば札幌でJRターミナルの建物をウクライナ色にライトアップするなどしても良いのでは」と話した。同懇話会では、末良さんの報告を受け、この消火用具を数千本単位でウクライナに提供しようと動き始めている。
 単身でウクライナ国境近くに出向き、支援物資を直接手渡した末良さんの行動は、一見無謀とも思えるが、その熱意は確実に大使館職員やヘイムの救援物資支援機関の人たち、ウクライナの人たちの心に届いている。


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