道新社長を7年間務めて、今年6月クーデター寸前まで行って事実上“解任”された菊池育夫氏(65)。社長を退いた株主総会後には一切の役職に就かず、中島公園近くのマンションで静かに暮らしているという。
7月ころ、ある道新販売店に駆け込む初老の女性の姿があった。販売店にいた従業員は道新の購読中止を聞き、住所や名前を確認。それを販売店の店主に報告した。その店主は菊池という名前と住所を知って愕然としたという。道新前社長の菊池氏が道新の購読を中止するというのだ。道新社長経験者が道新の購読を止めるというのは前代未聞。道新に対する恨み、つらみ――社長退任劇の真相が購読中止という一点の行動に凝縮されている――販売店主は背中に寒いものを感じていた。


菊池氏が北見支社長から取締役編集局長に指名されたのは2003年1月。東功社長(当時)による大抜擢人事だった。その4ヵ月後、脳腫瘍が見つかり先を心配した東氏は7人抜きとも8人抜きとも言われるトップ人事を断行する。菊池社長が誕生した瞬間だった。
助走期間のない突然の指名に菊池氏は戸惑いつつも社長ポストに自らの心と行動を合わせていったが、その道具として権力を重視。権力発動で人身掌握の近道を選択していく。
心根のこもっていない権力は、どうしたって見抜かれる。菊池社長誕生後、月日が過ぎていくたびに菊池氏は自身が社長として相応しくないことを自覚していく。そして、それを打ち消すために権力をより強めるしか心のバランスは取れない。
いつしか取締役会は無言の集まりとなり、新聞社には似合わない沈黙が会議室を支配するようになっていった。
溜め込まれたマグマは、圧力を高め岩盤を打ち破る機会を窺う。今年5月、ついにそのときがやってきた。新聞界を取り巻く外の情勢と道新という社内情勢の気圧差は菊池社長を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
追い出された菊池氏は、それをずっと待っていたのかも知れない。
退任騒動から落ち着きを取り戻した7月、この道新購読中止の“事件”は起こった。結局、道新購読は継続されることになったが、
揺れ動く菊池氏の心情が投影されていたことに疑いはないだろう。菊池氏は同じ販売店から購読している日経だけを中止した。道新と道新スポーツは引き続き購読している。

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