道の教員採用試験合格率は2割台と言われている。10人が受験しても2人しか教員になれない厳しい世界だ。そんな中で、ある任意団体が主催している講座受講生の合格率が4割を超えたという。その団体は現役やOBの教師、教育関係者らで作る「北海道師範塾」。志の高い教師を共に育てていこうという目的で作られた団体で、一昨年から始めたのが教師養成のための講座だ。この講座がなぜ高い合格率を実現できたのか。教育のプロたちが重視するのは知識の詰め込みではなく知恵を深めるための糸口を受講生たちに発見してもらおうという、いわば心のスイッチをオンにする姿勢にあると言えそうだ。(写真は、北海道師範塾の冬季講座で挨拶する吉田洋一塾頭)
北海道師範塾は3年前に設立された任意団体で自立した教師、志のある教師を育成するのが目的。道教育庁のOBや教育現場の現役教員、OBらで構成され、夏と冬に定期的に講座を実施している。そこには悩みを抱える現役教師や教員を目指す学生たちが集まり、自由な討論を重ねて共に問題解決への道を共に探る貴重な場になっている。
それを発展させる形で一昨年から始めたのが教師養成講座だ。師範塾の関係者が教師を目指す学生や臨時教員に手弁当で教師論や指導論といった座学から模擬授業、集団面接といった教育現場に必要な能力を伝授するオリジナルなカリキュラムで構成されている。
11月から始まり教員試験のある7月まで月2回、4講ずつ行われ初回の一昨年は30人が受講した。9ヵ月間でおよそ70コマにも及ぶ講座だが、初回受講料は5000円に設定、講師には交通費などが支払われるだけでほとんど手弁当。
塾頭を務める元道教育長の吉田洋一氏は、「我々も手探りで始めただけに最初のころは本当に大丈夫だろうかと心配だった。受講生は試験が近づくに連れて真剣さが増してきて、我々も段々と手応えを感じるようになってきた」と振り返る。
昨年7月の1次試験には75%の受講生が通過。通過した受講生を対象に8月の2次試験までには毎週4時間に亘る集中講座も実施した。
8月の2次試験が終わり10月下旬に明らかになった最終合格者は12人。2次試験合格者は60%になり、一次試験からの合格率は43%になった。この年の競争倍率は5・5倍、つまり合格率は20%を切る試験だっただけに実に倍の合格率を達成した。
吉田塾頭は、「成果を出せたのでこの講座をやって良かったと思っている。高い合格率を出せたのは、知識の詰め込みという座学だけでなく実学に近い領域で受講生の能動性を高められたことにもあると思う」と語る。
2回目の教師養成講座は既に昨年11月から始まっており、昨年と同様30人が受講している。今回は毎回、集団討論を一コマ組み込み、より自発性を引き出すカリキュラムになるように工夫している。2回目の受講料は、講座数を増やしたことやテキスト代も考えて1万2000円に設定した。
「講師には現役教師もいて時間を作るのも大変なのですが、講師たちの思いは受講生に一人でも多くに教壇に立って欲しいというということです」(吉田塾頭)
ボランティア組織の限界を抱えながらも北海道師範塾の活動が北海道の教育界に投げ込む小さな一石の意味は大きい。