「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第87回は、札幌市の「さっぽろ寺山修司資料館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第87回 さっぽろ寺山修司資料館
-俳句と手紙を通して、二人の交流-
さっぽろ寺山修司資料館(外観)
地下鉄東西線発寒南駅で下車し、発寒河畔公園ふもと橋近くの西区山の手7条6丁目に、さっぽろ寺山修司資料館がある。設立者兼館長は、高校生の時に俳句を通じて寺山と知り合った山形健次郎で、2019年(令和元年)5月4日の寺山37回忌を記念し、個人的に収集した寺山関連資料を展示する施設として開館した。寺山から山形に宛てた直筆の手紙約200点、寺山に関する書籍、主宰していた劇団のポスターやチラシ、講演映像など約1000点に及ぶ。
画像1:高校生の頃の写真と映画のポスター
寺山は1935年(昭和10年)、弘前市紺屋町に生まれた。その後家庭の事情で、八戸、青森、三沢で少年時代を過ごす。1951年(昭和26年)に青森高校に入学。在学中に「山彦俳句会」をつくり、さらに全国学生俳句会議を結成して、俳句改革運動を全国に呼びかけた。この時、俳句同人誌『牧羊神』を創刊し、編集に携わった。『牧羊神』は10代の俳句研究誌で、全国の26人が同人になり「十代のグループで文学史に残る運動を」との理想を掲げて、1954年(昭和29年)から3年間で12回創刊された。1954年(昭和29年)に早稲田大学教育学部国語国文科に入学。大学の短歌会に入部し、チェホフ祭で第2回「短歌研究」新人賞を受賞した。だが、病に罹り長期入院し、大学を中退した。その後、谷川俊太郎の薦めでラジオドラマを書き、シナリオ作家へ。さらに、歌人、エッセイスト、演出家、映画監督、写真家など、多才な才能を発揮して活動をした。1963年(昭和38年)、女優の九條映子と結婚。(8年後には離婚)1967年(昭和42年)、演劇実験室「天井桟敷」を設立し劇団を主宰した。1971年(昭和46年)、『書を捨てよ、町へ出よう』がサンレモ映画祭グランプリを受賞。3年後には、『田園に死す』で芸術選奨奨励新人賞を受賞した。1983年(昭和58年)、肝硬変のため、47才で亡くなった。
館内の壁には、寺山の略歴と写真、寺山作品の映画や劇団「天井桟敷」の公演、寺山の死後開催された関連のイベントのポスターが掲示されている。書棚には、寺山の著作物及び関連の書籍、資料、さらに稲葉憲仁発行の『月刊テラヤマ新聞』が置いてある。さらに、VHS、DVD(映画、舞台公演等)もあり、館内で鑑賞することができる。
窓側には、歌集『血と麦』及び代表作『田園に死す』、戯曲『血は立ったまま眠っている』などの初版本が展示されている。また、高校時代に出した『牧羊神』№1から№12(№8・9は欠損)がある。寺山より1才年下の山形も、『牧羊神』の創立メンバーの一員であった。
また、2002年(平成14年)から2021年(令和3年)にかけて、三沢、青森、東京、横浜で開催され、寺山イベントの告知用チラシ48点が展示されている。
グランドピアノの上には、ミネラルウォーター(「田園に死す」)の他に、ワイン(「先頭の孤独」と「青春の光芒」)が置いてある。2つのワインは、未発表詩『先頭の孤独』と俳句集『青春の光芒』の発表を記念して、山形が山梨県勝沼町の原茂ワインに依頼して作った特注品である。その隣に、山形が発刊した句集『銅像』と九條映子の写真がある。
画像2:書家の林俊博(青風)による直筆『先頭の孤独』
中央の楕円型テーブルには、寺山が山形に送った手紙と電報類が、75点並べられている。山形は旺文社の月刊雑誌『螢雪時代』に俳句を投稿し、何度も特賞を獲得した。作品を見た寺山は、1953年(昭和28年)に滝川町(現滝川市)の山形の家に、手紙を出した。これがきっかけで、寺山との交流が始まった。手紙の文面から、同人達の活気溢れる活動の様子や雑誌を続ける難しさ、寺山の俳句への思いなどが感じられる。
画像3:寺山が山形に宛てた手紙75点
館長の山形は中央大学法学部卒業後、札幌地裁書記官を10年間勤めた。退職後は事業家となった。生前の寺山は山形のことを、「数少ない僕の真の仲間のうちの一人」として信頼していた。寺山の死後、山形は寺山作品の魅力を人々に伝える活動を続けている。寺山の命日「修司忌」には毎年、偲ぶ会が催され、多くの寺山ファンが出席する。
利用案内
住 所:〒063-0007 札幌市西区山の手7条6丁目4-25 サンケンビル1F(ギャラリー山の手)
電話案内:011-614-2918
FAX番号:011-614-3339
開館時間:13:00~17:00
休 館 日:土曜日、日曜日、祝日(開催会期以外は閉館)
アクセス:地下鉄東西線発寒南駅よりタクシーで5分
地下鉄東西線西28丁目バスターミナルよりJRバス山の手線「循環 西21」に乗車、「ふもと橋」下車徒歩1分。
付近の見どころ
「発寒河畔公園」
琴似発寒川の河川敷にある公園で、春は花見のスポットである。桜約50本、梅約300本が植えられている。春から秋にかけて川鵜をみることができる。整備された園内は散歩に最適。
文・写真:大渕 基樹