第81回 利尻島郷土資料館 -利尻島の歴史、自然、鰊漁を学ぶ-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第81回は、利尻富士町の「利尻島郷土資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第81回 利尻島郷土資料館
-利尻島の歴史、自然、鰊漁を学ぶ-


利尻町郷土資料館(正面)

 利尻島郷土資料館は、利尻富士町の鴛泊港から鬼脇方面のバスで約30分のところにある。資料館は1973年(昭和48年)に開館、1913年(大正2年)に建てられた旧鬼脇村庁舎を再利用した、白い壁と赤い屋根の洋風歴史的建造物である。

 利尻富士町の成り立ちは、1956年(昭和31年)の昭和の大合併に伴い、鬼脇村と鴛泊村が合併し東利尻村になり、3年後に町に昇格、1990年(平成2年)に利尻富士町へ名称が変更になった。

 館内は、「利尻の自然と生き物」、「利尻の近代」、「リイシリのころ」、「にしんの恵みと栄華」の4つのカテゴリーからなる。

 正面を進むと、大きなトドの剥製「利尻島のトド太郎」が見学者を迎える。その近くに南浜獅子神楽と呼ばれる獅子舞に関する展示があり、今は利尻小学校の総合学習の授業の中で、獅子舞保存会の指導で舞の練習が行われ、11月の文化祭で発表する。さらに、利尻島の歴史的な出来事の写真が展示してある。その中でも注目すべき出来事は、1912年(明治45年)5月30日に地元の町民が、アフトロマナイで羆を仕留めた写真である。この羆がどのようにして上陸したかは、謎とされる。それから1世紀を経た2018年(平成30年)5月に、島内に羆が出たというニュースは、日本中の話題になった。


画像1:トドの剥製(愛称はトド太郎)と羆捕獲を伝える写真

 「利尻の自然と生き物」コーナーでは、カッコウの鳴き声を聞くことができる。森や海をジオラマとして再現して、利尻島の高山植物や動物、蝶の標本、利尻富士での写真記事や採取した岩石について紹介。さらに、絶滅した樺太犬の写真や新聞記事等の資料、犬の毛皮のチョッキやミンクの毛皮の展示がある。また、幻の酒『栄泉』についての説明もある。島内では甘露泉水を利用して、1932年(昭和7年)から1973年(昭和48年)頃まで、利尻酒造株式会社が『栄泉』という酒を製造、販売をしていた。『栄泉』は会社が廃業したため製造が途切れたが、2021年(令和3年)に半世紀ぶりに小樽の田中酒造が引き継ぐ形で復活させ、利尻富士町のふるさと納税返礼品として用いている。

 「利尻の近代」コーナーは、明治時代以降の島内での行政資料や人物、航路、生活文化などを展示している。見所は、利尻富士が北海道三景に選ばれるまでの資料をはじめ、初代鬼脇戸長の桐山三四郎の資料、綱島貞助の輪島塗の漆器さらに『伊万里焼大沙鉢』、工藤巳乃助旧蔵の『近江八景屏風』、仏教哲学者の井上円了の書、利尻神社奉納の甲冑、利尻の船絵馬などである。


画像2:中央の屏風は近江八景図、左は井上円了の書

 「リイシリのころ」コーナーでは、アイヌの人々の暮らしに関する展示、江戸時代作成の複製地図、駐留していた会津藩の歴史や墓碑の写真、利尻島襲撃事件の資料、作家の吉村昭についての新聞記事、米国から船で利尻島に漂着したラナルド・マクドナルド(1824~1894)の資料がある。マクドナルドは1845年(弘化2年)7月1日に島に上陸し、ひと月ほど滞在した後、松前を経て長崎に送還され、5年後に帰国した。長崎でオランダ通詞(通訳)の森山栄之助(1820~1871)は、マクドナルドから英語を学んだ。この逸話を元に吉村昭は、『海の祭礼』と『黒船』の2作品を発表した。『海の祭礼』はマクドナルドについて、『黒船』は森山栄之助についての小説である。利尻富士町は記念碑を、マクドナルド上陸と吉村の文学作品を称えるために、野塚展望台に建立した。

 「にしんの恵みと栄華」コーナーでは、『にしん沖揚げ音頭』が流れている。鰊漁の様子と番屋の内部、利尻島内を模型として再現し、鰊漁が盛んだった時の鬼脇港の白黒写真や、番屋で使っていた茶碗、漁具資料などを展示。特に1950年(昭和25年)に撮影された写真は、利尻島の鰊漁の最盛期を偲ばせる。最盛期には10万トン以上の水揚げがあったが、1956年(昭和31年)頃から衰退し姿を見せなくなったものの、近年になり獲れるようになった。現在の利尻島の水産業で盛んなものは鮑、海鼠、鮭、ホッケであり、特に利尻雲丹と利尻昆布はブランドとしての価値は高い。


画像3:左は番屋の模型、右は鰊漁の様子の模型

 裏庭は植物園になっている。開館当初は高山植物のみを植えていたが、2019年(令和元年)より園内の新整備に伴い、白、赤、黄、青の約60種類に及ぶ、多種多様な利尻島由来の植物を見ることができる。

利用案内
住  所:〒097-0021 利尻富士町鬼脇字鬼脇257
電話番号:0163-83-1620
開館時間:9:00~17:00(5月~10月)
入 館 料:一般(高校生以上)200円(30名以上160円)
     中学生、身障者 100円(30名以上 60円)
     小学生 50円(30名以上 30円)
休 館 日:毎週火曜日(祝日の場合はその翌日)
     祝日の翌日、11月~4月(すべて休館日)
     ただし7月~8月は無休
アクセス:鴛泊港から車で約25分。又は宗谷バスにて鬼脇第二バス停下車、約30分。

付近の見どころ
桐山三四郎顕彰碑
 鬼脇村(現利尻富士町)の政治経済の発展に貢献し、明治14年初代鬼脇戸長(現村長)になった桐山三四郎(1852~1913)の業績を称えて、1912年(明治45年)に建立した。町の有形指定文化財に指定。

文・写真:大渕 基樹

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