第78回 江別市郷土資料館 -札幌都市圏のあけぼの-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第78回は、江別市の「江別市郷土資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第78回 江別市郷土資料館
-札幌都市圏のあけぼの-

 札幌都市圏に、人類が住み始めたのは、いつ頃だろう。最も古い遺物は、大麻十三遺跡から出土した旧石器時代後期にあたる二万年前の石器、同じく集落は、大麻六遺跡で発見された縄文時代創世期の八五〇〇年前の遺構である。さらに、高砂遺跡から縄文時代の札幌都市圏で最大級の集落も確認された。これらの遺跡は、全て江別市内の野幌丘陵にあり、先史時代、多くの遺跡と伴に人口も集中していたのが、解き明かされた。なぜ、この場所に、人々が最初の痕跡を残し、長期に渡り住み着いていたのだろうか。

 江別市郷土資料館は、平成三年(一九九二)四月、旧中央公民館を改築して開館した。石狩川に隣接した野幌丘陵の北端にあり、重要文化財となる土器や出土品が多く展示されている。野幌丘陵は、四万年前に大爆発した支笏火山の噴火物が積ることで造られ、土器の材料となる豊富な粘土層が、この丘陵に形成され、北海道の土器生産地のセンターとなった。現在、この粘土層からレンガが生産され、江別市は日本有数のレンガ生産地となる。


江別市の地図。赤丸は遺跡の分布を示す。矢印が野幌丘隆。(著者撮影)

 この資料館の呼び物は、続縄文時代の「江別文化」と、擦文時代の「北海道式古墳」の展示品だ。
二世紀から四世紀の続縄文時代後期、「江別文化」という独特な江別式土器が生まれた。昭和初期、江別町対雁で坊主山遺跡が発見され、多数の完形土器が出土し江別式土器と呼ばれる。当時、四カ所に分類されていた北海道の続縄文文化の特徴を合体した土器だった。この土器は、江別から全道に拡散して、北海道の文化は初めて統一された。さらに、江別文化の範囲は、本州の宮城県北部や新潟県中部まで拡大する。気候の寒冷化で、この文化を担っていた人々が津軽海峡を越え南下したからだ。彼らを、古墳時代のヤマト王朝は蝦夷(えみし)と呼んだ。その後、江別式土器の幾何学文様は、アイヌ文様のルーツの一部になったと云われている。


拡散する江別文化。(著者撮影)

 昭和六年(一九三一)夏、札幌市立山鼻小学校教員の後藤壽一が、十六基の古墳群を発見する。現在、最北端に位置する古墳で、旧豊平川と石狩川が合流する野幌丘陵北端に造られた。平成十年、国の史跡指定を受ける。この古墳は、二三人を埋葬した円墳式形式で、最大五メートルの墳丘と、東西方向の長方形の穴に、遺体を納める木製の棺が置かれていた。周溝から、本州から搬入されたと予想される鉄製の蕨手刀・鉄製の耳環・琥珀製の勾玉、律令制が定める六位以下の金具などの装飾品も見つかる。調査の結果、古墳は、律令国家の関連者の墓で、飛鳥~奈良時代の八世紀前後の間に造設されたと推察された。


ジオラマの左上に古墳群が見える。(著者撮影)


出土した副葬品。(著者撮影)

 しかし、北海道式古墳は、謎に包まれているという。なぜか、本州に近い道南に無く、恵庭市で見つかった古墳も含め石狩平野にしか存在しない。また、八世紀前後の短期間でしか造設されていない。
 隣にある『日本書紀』のパネルに、その謎解きとなる説明があった。飛鳥時代後期の斉明四年(六四九)、越国守の阿倍比羅夫(あべのひらふ)により行われた数回の遠征の記述だ。大船団を率いて、渡嶋に住む蝦夷(えみし)と組み、大河の川口で粛慎(あしはせ)を討伐する内容である。学芸員の説明によると、渡嶋は北海道、大河は石狩川と推測されているという。この遠征で、比羅夫は、蝦夷の助言を受け後方羊蹄(しりべし)に政庁を置いた。その場所が、江別の古墳群と関連するのではないかと言う。ただ、遥か昔の飛鳥時代に、北海道まで到達できる航海能力があったのだろうか。この遠征の三年後、比羅夫は、同じく大船団を率いて「白村江の戦い」と呼ぶ、北海道より遠い朝鮮半島で戦った史実を聞くと、信頼性が増してくる想いがした。


『日本書紀』による比羅夫の記述。(著者撮影)

 札幌都市圏で、最初に人類が定住し、旧石器から続縄文時代の文化が花開いた場所が江別市の野幌丘陵だった。広範囲な北の異文化を築いた続縄文人のふるさととなり、飛鳥時代、阿倍比羅夫が、北方社会を統治するため政庁を置いたかもしれない江別。この資料館を訪ねれば、北海道の歴史の幕開けが身近に感じられるだろう。


江別市郷土資料館の外観。(著者撮影)

利用案内
住  所:〒067-0002 江別市緑町西1丁目38 JR江別駅から徒歩15分。
電話番号:011-385-6466
H  P:https://www.city.ebetsu.kokkaido.jp/site/kyouiku/3022.html
開館時間:午前9時30分から午後5時
休 館 日:月曜日
入 館 料:高校生以上200円

付近の見どころ
江別市ガラス工芸館
 江別市野幌代々木町53番地にあるガラスの博物館で、ガラス工芸家柿崎均さんの工房として活用され、制作風景や作品の見学のほか、作品づくりの体験もできる。レンガ館も、この施設の近くにある。

文・写真:河原崎 暢

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