「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第73回は、釧路市の「旧太平洋炭礦 炭鉱展示館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第73回 旧太平洋炭礦 炭鉱展示館
-釧路炭田と石炭産業の歩み-
炭鉱展示館外観
JR釧路駅より春採湖方面のバスで約16分のところに、八角形の形状をした炭鉱展示館がある。この展示館は、太平洋炭礦株式会社が歩んだ歴史を後世に残し、炭鉱の現状と石炭の認識を深め、広く市民に理解してもらうために、会社創立60周年の記念事業として、1980年(昭和55年)に建てられた。
釧路炭田は、1856年(安政3年)から採掘が始まった北海道最古の炭田である。明治初期に榎本武揚やベンジャミン・ライマンなどの地質調査から、有望な炭層であることが判明。これにより、1886年(明治19年)に鉱区の出願を開始し採掘。大正になって木村組釧路炭鉱と三井鉱山別保炭鉱が経営に乗り出すが、経営難になった。そこで1920年(大正9年)、二つの炭鉱会社は合併して新会社の太平洋炭礦株式会社をつくり、経営に乗り出した。
終戦までは陸地部分を採掘していたが、戦時増産体制で陸地部分に採掘可能な場所が無くなったため、1946年(昭和21年)より海底堀にシフトした。最盛期の1977年(昭和52年)には、約261万トンを採掘。その後、空知地方の炭鉱が相次いで閉山する中でも操業を続けたが、2001年(平成13年)の坑内自然発火により経営が悪化したため、翌年1月30日に閉山となった。82年間に渡って、累積約1億トンを採掘した。閉山後は「釧路コールマイン(KCM)」が経営を引き継いだ。
太平洋炭礦で採れる石炭は亜瀝青炭で、特徴は硫黄分が少ないため火が付きやすく、火力が強い。さらに、灰が少ないので低公害である。このため採掘した石炭は発電用に適していることから、釧路火力発電所や道内の澱粉工場や製糖工場に供給している。
1階は、石炭と太平洋炭礦に関する展示である。太平洋の地下350mから掘り出された、「日本一の大塊炭」が置いてある。重量は6トン。この石炭は、定期的にニスを塗って風化を防いでいるそうだ。施設の中央の柱部分にあるのは、縮尺された釧路沖の海底の地層の再現である。すぐそばに、炭坑内で実際に使用していた作業服やヘルメット、救護装備等を、写真やパネルを使って説明している。また、近くにビデオコーナーがあり、釧路炭田や太平洋炭礦の歴史を映像で学ぶことができる。
館内の展示物1:日本一の石炭の塊
周囲を囲むように、太平洋炭礦と石炭の歴史及び海底堀の坑内春採抗の模型に関する説明を、写真やパネル、パノラマなどと共に展示している。石炭が掘り出されて商品になるまでの過程、現在の埋蔵量と今後の需要見通しや未来の利用等の資料もある。その隣は、選炭工場の全景150分の1の縮尺にした模型を使い、選炭の説明をしている。「選炭」とは不純物の混入している石炭を、処理することである。すぐ隣は、採掘時に使用する特殊車両、フェリーなどの精巧に制作されていた模型及び釧路臨海鉄道のレールが、展示されている。
館内の展示物2:1階の展示内容、右の展示物は坑内春採抗の模型
地下は広さ410m2、長さ80m、高さ3.4mのアーチ枠で囲った、海底での炭鉱の様子を体験できる模擬坑道になっている。掘削から運搬までの様子の説明と、炭鉱で使う機材が置いてある。電気機関車、材料鉱車、シャトルカー、コンティニアスマイナー、自走枠、ドラムカッター、切羽コンベヤー、ステージローダーなど、実際に炭坑で使用されたものだ。
館内の展示物3:地下の模擬坑道と坑内電気機関車
釧路コールマインは当初、給料の大幅カット、雇用条件は1年ごとの更新などの厳しい条件下で、5年で会社が無くなるのではという噂が流れたが、石炭の採掘の他に、中国、ベトナム、インドネシアに技術者を迎えて技術指導を行っており、今も重要な基幹産業として釧路市の経済を支えている。「保安第一・生産第二」を理念として、休業無災害1500日を2014年(平成16年)7月に達成した。令和になってからの石炭採掘量は、2020年(令和2年)度で約27万トンである。
太平洋炭礦OBで展示館のガイドをしている栗林昭夫さんは北海道新聞の取材で、自身は「ヤマから離れる気は起きなかった」、さらに「今の子どもたちは、石炭を地面に転がっているものと思っている。海の下で人が掘っていること、石炭が釧路のまちを支えてきたことを、伝え続けたい」と語っている。
利用案内
住 所:〒085-0805 釧路市桜ヶ岡3-1-16
電話番号:0154-91-5117
開園時間:10:00~16:00
入 館 料:子供200円(10名以上100円) 大人300円(10名以上200円)
休 館 日:水曜日、年末年始
アクセス:JJR釧路駅より、くしろバス白糠線17番系統1・2を利用して「スカイロード」下車、約16分。
付近の見どころ
青雲台体育館
太平洋炭礦株式会社の系列会社である、太平洋スカイランド(現在は廃業)が、従業員の福利厚生のために建てた。現在は釧路市が管理。様々なスポーツ競技会の他、プロレスも開催される。夜は、駐車場から釧路市内の夜景が一望できる。
文・写真:大渕 基樹