第67回 函館市青函連絡船記念館摩周丸 -津軽海峡を往復した運航記録-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第67回は、函館市の「青函連絡船記念館摩周丸」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第67回 函館市青函連絡船記念館摩周丸
-津軽海峡を往復した運航記録-


函館市青函連絡船記念館摩周丸(正面入口)

 函館港若松埠頭に繋留中の船は、青函連絡船としての役割を終えた摩周丸である。1965年(昭和40年)6月30日、初運航。総トン数8327.71トン、全長132メートル、最大幅17.9メートル、旅客定員1,200人、乗組員53人。1988年(昭和63年)3月13日の連絡船運航廃止日までの約22年9か月間に、35,943回運航した。就航距離は約400万キロメートルであり、この距離は地球を百周したに等しい。

 この航海の廃止から4か月後の7月19日に、青函トンネル開通記念博覧会(函館EXPO88)開催に伴い、摩周丸の展示を函館どっく港内で行った。博覧会終了後、船体の保存が危ぶまれたが、函館市の指定管理者である、特定非活動営利団体「語り継ぐ青函連絡船の会」(湯川れい子代表)が引き継ぎ、若松埠頭に固定された。摩周丸内は展示施設に改修されたために、現役時と異なっている。旧普通船室、鉄道車両甲板、機関室などアスベストが今も現存しているので、安全上の観点から見学はできない。船体はスクリューを切断してコンクリートで固めている。

 階段を上ると2階は船内の入口である。乗船口を入ると、連絡船に使用していた大きな錨、国鉄とJR時代のファンネル(煙突)マーク、鐘、銅鑼などが展示されている。
 右の階段を上っていくと甲板に出て、遊歩甲板自動車搭載区域になっている。この区域は、乗用車を最大12台搭載することができた。

 左の階段を上り3階には、普通椅子席とグリーン指定椅子席が当時の形のまま保存されている。ここに坐って、青函連絡船に関する映像を見ることができる。その近くには連絡船の歴史がパネルで解説され、歴代連絡船の模型も並んでいる。突き当りのサロン(無料休憩所)は、かつて船長や航海士の居住区で個室や会議室があった。前方の窓より函館山や市の西部地区(旧市街)が一望できる。後方部分には、連絡船や船舶関係の図書、映像ライブラリーがあり、学びの場になっている。


館内の展示物1:赤座席は指定席、青座席は普通席。
坐りながら青函連絡船に関する映像が視聴できる。

 4階へ上る階段の途中に、「船のしくみ展示室」が設けられている。ここでは、青函連絡船の構造やシステムなどを模型や映像を使って説明している。
 操舵室(船橋)と無線通信室は当時のまま残されており、操舵室では舵輪や各種操船機器に触れることができる。無線通信室では、当時の無線のやりとりの再現放送がある。通信士席に座って、モールス信号を打つこともできる。


館内の展示物2:手前の展示は歴代青函連絡船の模型。右手は銅鑼や鐘。

 この近くには多目的ホールがある。右舷後部を復元した普通桟敷席(1人区画は20~25人利用可)があり、実際に座ったり寝そべったりすることができる。また、紐結び体験や子供向けのキッズコーナーもあり、親子で触れあえる場所でもある。

 操舵室の上の階段を上ると、磁気羅針盤が設置されているコンパス甲板と呼ばれる区域に行く。ここは、操舵室の屋根に当たる部分で、摩周丸では一番高い所である。ここからレーザーポストや、快晴の日は函館港が一望できる。


館内の展示物3:操舵室内からは、函館市内が一望できる。

 4階の甲板には、膨張式救命筏と救助艇が左舷に1隻だけ、現役の形で残っている。救命筏はカプセルの中に収納されており、ブリッジから遠隔操作で海面に落とすことができ、自動的に膨張して25人乗りのゴムボートになる。救助艇は、非常時に海面に投下した救命筏を集めて、曳航する時に使用し、海に落ちた人を救う時にも用いる。また、摩周丸に実際に取り付けられていたアンカーチェーンや可変ピッチプロペラを展示している。このプロペラは、回転数を一定のまま推力や進行方向、前後を変えることができる。

 連絡船の廃止後、汽笛は消えたが、2002年(平成14年)6月に「語り継ぐ青函連絡船の会」によって汽笛は復元され、毎日正午と17時に2度鳴る。汽笛は、和音タイプのエアホーンである。この重厚な音色は、かつて賑わっていた青函連絡船を思い出すとともに、函館の街の名物になっている。

 この展示物は2008年(平成20年)、経済産業省の「近代化産業遺産」に認定された。そして今、語り継ぐ会は80年間にわたる青函連絡船の運行記録や資料、及び洞爺丸事故に関する当時の日報など約2万点を、日本の経済発展にかかわる重要な資料として、世界記憶遺産に登録するよう、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に呼びかけている。

利用案内
住  所:〒404-0063 函館市若松町12番地先
電話番号:0138-27-2500
開館時間:4月〜10月 8:30~18:00(入館は17:00まで)
     11月~3月 9:00~17:00(入館は16:00まで)
休 館 日:12月31日〜1月3日
     4月中旬に船舶検査と特別検査のための臨時休館
     その他、暴風、暴風雪などの天候悪化や津波注意報発表の時
料  金:一般(大人、大学生):500円(団体400円)
     児童・生徒(小学生~高校生):250円(団体200円)
     幼児・未就学児:無料
     ※団体料金は20名以上
アクセス:JR函館駅より函館港方面へ徒歩4分

付近の見どころ:
はこだてみらい館
JR函館駅前の「キラリス函館」の3階にある、屋内外施設。巨大なLEDディスプレイやシアターなど様々なコンテンツを通して、「科学」を体験できる。

文・写真 大渕 基樹

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