第43回 さっぽろ雪まつり資料館 ~極寒地に芽生えた白い伝統~

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第43回は、札幌市の「さっぽろ雪まつり資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第43回 さっぽろ雪まつり資料館 ~極寒地に芽生えた白い伝統~


さっぽろ雪まつり資料館外観

 雄大な景色が広がる羊ケ丘展望台に、さっぽろ雪まつり資料館がある。毎年2月に大通公園を含む複数の会場で開催される雪と氷の祭典を、後世に引継ぐ目的で設立された資料館である。
 館内には、環境ひろば(雪祭り会場の一角)のテーマソングに選ばれた、アイルランドの歌手エンヤの曲が流れている。彼女の手書きのメッセージも見られる。通路には『さっぽろ雪まつり』年表がある。昭和25年から平成30年までの話題を簡潔に記している。

 部屋に入ると、陸上自衛隊による大雪像の製作や作業工程を解説したパネル写真が展示されている。雪輸送の様子や、多様な工具を用いて仕上げていく繊細な技能が見てとれる。傍のTVでは、前年度の雪まつりの放映も観賞できる。大雪像の作業は、高所や急斜面で行う為、その大変さが伺える。
 奥にある記念品展示室では、ポストカード、ガイドブック、絵ハガキ、それに札幌オリンピック冬季大会時の記念品が展示されている。昭和47年、雪まつりと同時に行われた札幌オリンピック大会は、世界中のマスコミの注目を集めた。報道効果もあり、観光客を誘致するきっかけとなった。オリンピック組織委員会のブランデージ会長は雪像を見て、「札幌市民の素晴らしい歓迎に心を打たれた」と語っていた。

 2階の雪像展示室では、毎年製作された雪像の模型(縮小)が陳列されている。細部まで表現されていて、何れも個性が光る作品揃いだ。
 ポスター展示室には、歴代のポスターと祭りの風景写真が数えきれないほど飾られている。モノクロ写真を眺めていると、母娘らしい2人の対話が聞こえてきた。
「この会場、確か、見覚えがある。そう、あなたが生まれる前よ」
「そう、白黒でよくわからないけれど、この後姿、母さんかもね」
 年配の女性に蘇る記憶、その同じ景色を娘が目にする。資料館に収集されたフィルムの記録は、過ぎ去った想い出の断片を繋ぎ合わせる。2人の対話を耳にしながら、資料館の存在意味を垣間見る。そんな気がした。


2階ポスター展示室


2階雪像模型展示室

 さっぽろ雪まつりは世界三大雪祭りと評される。大通会場、すすきの会場、つどーむ会場の冬空の下に、多くの人が熱狂する冬の祭典だ。その祭典の系譜を辿ると、70年前に遡る。
 戦後まだ4年、食料不足で燃料も乏しい時代。雪捨て場として使われていた大通西7丁目で、ひとつの試みが行われた。美術教員の指導のもと、中高生たちが6基の雪氷像を建てた。雪まつりの誕生である。唱歌大会、花火大会、野外映画にドッグレースなども催された。他にも、札幌駅前には国鉄職員が雪像を作り、世間の関心を高めたそうだ。
 はじめてのこの祭りは、約5万人が参加した。その熱狂ぶりは大好評となり、市の年間行事として位置づけられる。

 以来、規模が拡大し大きな雪像が増える中、自衛隊の協力や市民の支えに商社スポンサーの後押しもあり、冬の祭典は輝きを増していった。時には、雪不足や石油危機などの困難な時代もあったが、白い伝統は途切れることなく、現代に継続されている。
 世界の人々を魅了する雪の芸術作品、その歴史を伝える資料館。館内に漂う冬の光景は、夏にこそ訪れてみたくなる。

利用案内
所 在 地:札幌市豊平区羊ヶ丘1展望台内
     地下鉄福住駅から北海道中央バス羊ヶ丘展望台行き10分
     車:札幌駅から約30分
営業時間:5・6月8:30~18:00  7月~9月8:30~19:00  10月~4月9:00~17:00
入館無料:ただし、羊ヶ丘展望台の入館料として小中学生300円 大人520円

付近の見どころ:
羊ヶ丘ほっと足湯
クラーク像横の林間スペースにある足湯施設。カラマツ、トドマツを利用している。長閑な風景を眺めながら疲れを癒せる施設。
利用時間:10月~4月10:00~16:00  5月・6月9:00~17:30 7月・8月 9:00~18:30  9月9:00~17:30
入館無料:ただし、羊ヶ丘展望台の入館料として小中学生300円 大人520円

文・写真 雪乃 林太郎

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