「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第60回は、白老町の「民族共生象徴空間 ウポポイ」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第60回 民族共生象徴空間 ウポポイ
-アイヌをテーマにした日本で最初の国立博物館-
国立アイヌ民族博物館外観
北海道に住んでいると身近にアイヌの知り合いがいたり、学校で学んだりして、何らかの形でアイヌを知っていることが多いが、本州や海外から来た人たちの中には全く知らない人もおり、そうした人たちから「アイヌ」って何? どういう人達? と聞かれることは珍しくない。
2020年にオープンしたウポポイは、文化継承の危機にあるアイヌ文化の復興・創造・発展の拠点として、多くの人にアイヌ民族の歴史や文化を伝えていくために設立された。正式名称は「民族共生象徴空間」で「ウポポイ」はその愛称である。「ウポポイ」とはアイヌ語で大勢で歌うことを意味する。館内の展示は、アイヌ民族の視点で「私たち」という切り口で語る構成になっている。
ウポポイは「国立アイヌ民族博物館」「国立民族共生公園」「慰霊施設」により構成される。湖のほとりの広い敷地にあり、屋内外の施設が充実していて、大人数の修学旅行生や団体の観光客にも対応できる。
博物館には、2階に基本展示室と特別展示室、1階に総合案内、シアター、ミュージアムショップがある。博物館のメインとなる基本展示室では、アイヌ民族はどこから来たのか? どのように生活してきたのか? 和人との間にどのような争いがあったのか? などが「私たちの世界」「私たちのくらし」「私たちの歴史」「私たちのしごと」「私たちの交流」「私たちのことば」の6つのテーマでわかりやすく展示されている。
中央部には、丸くならんだ14台のケースにこれらのテーマの代表的な資料がプラザ展示としてまとめて展示してあり、時間のない人もここを見れば展示の概要がわかるようになっている。
樺太アイヌのイオマンテ(クマの霊送り)を再現した展示は見どころのひとつ。アイヌ民族の信仰の対象であるクマやフクロウをはじめとするカムイについて、映像も交えて詳しく解説している。伝統的なアイヌ文化のみならず、現代を生きるアイヌの人々の仕事も紹介している。また2階ロビーの大きな窓から見える、アイヌの伝統的な家チセが並ぶ湖畔の景色が素晴らしい。
樺太アイヌのイオマンテの再現
民族共生公園は、アイヌ文化を五感で感じられるエリア。古式舞踊や伝統楽器の演奏が見学できる体験交流ホールやアイヌ民族の昔ながらの家を再現した伝統的コタン(村)などがある。木彫・刺繍体験やアイヌ民族の暮らしや文化を解説する「コタンの語り」など様々なプログラムが毎日開催されているので、入場時にその日のスケジュールを確認して、興味に合わせてまわるといいだろう。解説をしてくれる職員の多くがアイヌ語の名前を持っており、名札に書いてあるので、アイヌ語の名前の由来を聞いてみてはどうだろうか。
チセ(家屋)群が広がるアイヌの伝統的コタン
慰霊施設は、博物館から車で5分ほどの太平洋を望む高台にあり、遺骨等を納めるための墓所や慰霊行事を行う施設、慰霊施設を象徴するモニュメントがある。
入口ゲート前にあるエントランス棟は入場料を支払わなくても利用可能なエリア。アイヌ工芸品を扱うショップ、アイヌ料理が楽しめるレストランやカフェがある。ウポポイのPRキャラクター「トゥレッポん」のグッズなどここでしか買えない物もある。
アイヌ民族は、大きな湖や川のほとりに集落を作ることが多く、湖や海がある白老町には、昔からアイヌ集落(コタン)があった。1960年に白老市街にあった観光コタンがポロト湖畔に移設され、ウポポイの前身となる野外博物館「ポロトコタン」が開業した。
その後コタン内に白老町立の「白老民俗資料館」が開設され、1983年に「アイヌ民族博物館」になった。2014年、白老に国の施設として民族共生象徴空間が整備されることが決定し、ポロトコタンは2018年に閉館した。博物館のこうした変遷は、アイヌ民族に対する国の対応の変化を如実に示しているといえる。
利用案内
所 在 地:北海道白老郡白老町若草町2丁目3
電 話:0144-82-3914
H P:https://ainu-upopoy.jp/
開館日時:平日9:00〜18:00 土日祝 9:00~20:00 季節によって変動あり。
休 館 日:⽉曜⽇(祝日または休日の場合は翌日以降の平日)および 年末年始
入 場 料:大人 1,200円 高校生 600円 中学生以下 無料 団体割引あり
※ウポポイ入場には事前予約が必要
駐車料金:乗用車 500円
付近の見どころ:
白老仙台藩陣屋跡 白老郡白老町陣屋町681-4
江戸末期に蝦夷の北方警備にあたっていた仙台藩の陣屋跡。当時の絵図や古文書、武具などの豊富な資料を展示。ウポポイより自動車で5分。
文・写真 藤森祐子