「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第20回は、札幌市の「酪農と乳の歴史館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第20回 「酪農と乳の歴史館」―北海道の酪農と共に―
酪農と乳の歴史館の外観
JR札幌駅の東へ2キロ、木造平屋建ての歴史を感じさせる苗穂駅に降り立つ。鉄道と豊平川の水に恵まれた苗穂地区は早くから開け、大小の工場が立ち並んだ。左手に苗穂運転車両区を見ながら、札幌市東区苗穂町に入る。
雪印メグミルク(旧雪印乳業)本社札幌工場の8万平方メートルの敷地の一角に「酪農と乳の歴史館」がある。1977年(昭和52)に3階建て延べ床面積2074平方メートル、白いタイル張りで雪の結晶をイメージして建てられた。
一階は、ホールと図書コ―ナ。120人が入るホールではDVDの映像や壁に貼られた年表などで、酪農や乳製品についての学習ができる。
図書コ―ナには、酪農畜産農業化学等に関係する貴重な図書資料1500冊が備えつけられている。日本各地から研究者や酪農家などが閲覧に訪れる。佐藤貢初代社長の揮毫による、「酪養立国」の額が掲げられている。
吹き抜けの階段ホールには、世界中から取り寄せた74本の「カウベル」が吊るされている。放牧中の牛の居場所を探すために、牛の首に取り付けたベルの音色を聞きながら階段を上がる。
二階へ足を踏み入れた途端、フロアー全体に広がる機械類に驚く。創業当時から使われてきた150点もの機械の数や大きさに圧倒される。製造工程や機器類の改良と進歩の歴史がわかる。かつて上海やロンドンにまで輸出されていたバターの製造は、最初木製の機械「ハンドチャーン」を手で回して使っていた。それが、ステンレス製の機械へ移行して、連続して生産できるようになった。ミニチュア機械のジオラマで流れが示されている。乳製品はガラス瓶につめられていたが、ガラス瓶の形が変わってゆき、紙パックになっていった。中央部には冷却器や洗浄機など、とてつもなく大きな機械がおかれている。<
三階は、北海道の酪農がどのように発展してきたか、そして雪印がどう関わってきたのかを示す、700点もの資料や写真などが展示・保管されている。
北海道の酪農は約150年前明治時代初頭、開拓使顧問のケプロンが寒冷地では稲作はできないと、酪農を奨励したことに始まる。エドウィン・ダンが招聘され、官営の牧場でバター作りを行った。その後、デンマーク農法が取り入れられた。しかし1923年(大正12)関東大震災が発生し、世界中から支援物資の練乳が日本に届けられた。さらに食料品にかけられる関税が撤廃されたため大量の乳製品が輸入され、道内の酪農は大打撃を受けた。
この窮状を救おうと立ち上がったのは、自らも酪農家として努力と研究を重ねてきた宇都宮仙太郎、黒沢酉蔵、佐藤善七(佐藤貢の父)であった。組合を組織し、加工、販売全てを自分たちの手で行う目的で、道内の酪農家629人から出資金を集め、1925年(大正14)に「北海道製酪販売組合」を結成した。これが、のちの雪印乳業のもととなる。
戦後いくつかの会社の吸収合併を経て、1950年(昭和25)、雪印乳業株式会社(現雪印メグミルク株式会社)が誕生する。黒沢酉蔵による「健土健民」の思想は雪印創業の精神となる。北海道の酪農産業を導く先駆者たちの開拓者精神は、北海道の酪農を発展させていった。
札幌工場へ続く通路の両側には、広告の引き札や、懐かしいポスターがびっしり貼られている。工場の見学はエアーシャワーの強い風圧で、作業着に付いた細かいチリを吹き飛ばす体験をした後、機械の流れ作業で次々に出来上がる製品をガラス窓越しに見学する。最後に、出来上がったばかりの新鮮な乳製品を試食できる。
見学は30分コースと60分のコースがあり、職員の丁寧な説明がなされる。国内はもとより中国、台湾、韓国など東南アジアをはじめ、アフリカ、ヨーロッパ、北米などから年間18000人もの見学者が訪れる。
貴重な展示品や書籍資料は通産省の近代化産業遺産に、歴史館は北海道遺産に登録されている。
一つの企業が持つ史料館の枠を超えて、広く北海道全体の酪農の歴史を学ぶことができるところである。
館内の様子
利用案内
所 在 地:〒065-0043 札幌市東区苗穂町6-1-1
連 絡 先:電話 011-704-2329
アクセス:JR苗穂駅から徒歩15分
中央バス「北6条東19丁目」下車、徒歩5分
開館・見学:月曜~金曜 9時~11時、13時~15時30分
見学は無料、事前申し込みが必要。
付近のおすすめスポット
札幌苗穂地区の工場記念館群には、明治時代から北海道の産業をリードしてきた、福山醸造、北海道鉄道技術館、サッポロビール博物館(旧札幌製麦工場)、札幌開拓使麦酒醸造所(現サッポロファクトリー)、千歳鶴酒ミュージアム(日本清酒)などの建物があり、稼働を続けている。
文・写真 山崎 由紀子