「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第12回は、札幌市の「千歳鶴酒ミュージアム」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第12回 「千歳鶴酒ミュージアム」 ―札幌の酒造文化を知る―
千歳鶴酒ミュージアム
千歳鶴酒ミュージアムでは、札幌で唯一の地酒「千歳鶴」の歴史と、その酒造り工程や道具、また日本酒の豆知識を紹介している。日本清酒株式会社により、平成14年(2002)に本社工場に隣接して建設され、同21年(2009)に大幅にリニューアルされた、全国でも珍しいミュージアムだ。
ミュージアムは、大きく六種類のコーナーで構成されている。入口を入ると、真っ先に仕込み水コーナーの湧水盤に出合う。地下百五十メートルから汲み上げた豊平川の伏流水が湧き出ており、横に柄杓と紙コップが用意され、いつでも飲水できる。
伏流水は、豊平川の水が大地に浸み込んだ地下の川で、数百年かけてろ過されたミネラルが豊富な中硬水であり、仕込水として利用されている。
奥に向かうと、メインの酒造り資料展示コーナーだ。今までは、本州の酒米を使用していたが、平成15年(2003)から、新十津川ピンネ酒米組合の道産米「吟風」を使っている。兵庫県産山田錦の特Aに勝るとも劣らないと、「吟風」が評価されたのだ。
傍には、水汲み、麹造りから本仕込みまでの過程が、ミニチュアでわかりやすく説明されており、モニターでも、清酒の製造過程が流れている。年季の入った木製の仕込み樽の陳列も間近で見られる。
酒造りの職人「杜氏」の四代目、津村弥(わたる)の業務日誌も、閲覧できる。麹作りは二十四時間体制で、二昼夜寝泊まりして手作業することなどが、詳しく記載されている。
館内の中央部は、ディスプレイコーナーだ。「千歳鶴」各種リニューアルでお目見えした新ラインナップや看板銘柄「吉翔」などが、展示されている。
その真ん中には、平成20年(2008)に開催した北海道洞爺湖サミットで、各国首脳に献上された「将進酒」の人間国宝「酒井田柿右衛門」の陶器が、飾られている。
広い試飲カウンターコーナーでは、「千歳鶴」の吟醸・純米・本醸造を中心に八種類を、飲むことができる。
「千歳鶴」関係以外では、日本酒一般の知識が解るように、壁や机にポスターが貼ってある。製造工程でビールやワインとはどう違うか、純米酒から大吟醸までの分類の定義や推奨する飲み方、また和食に限らず世界のどの様な料理と相性が良いかが表になっていて、日本酒に詳しい愛好者でも一見の価値がありそうだ。
蔵元直営売店コーナーでは、「千歳鶴」の各種の酒がずらりと並んでいる。特に、道産米「吟風」を100%使用した蔵元限定酒、通常の数倍の時間でゆっくりと発酵させた「山廃純米吟醸」や十年間蔵の中で熟成した「秘蔵古酒」は、お薦めだ。
カフェスペースでは、酒以外にも、酒粕を利用したユニークなアイスクリームやキャンディが食べられる。
壁際に貼ってある往年の女優を起用したポスターを見ていると、高度成長期を含め「千歳鶴」が、昭和時代から多くの一般大衆に愛されていたことが解る。
北海道の酒造りは、ビールやワイン醸造が、官営事業から始まったのと違い、民間から始まる。
万延元年(1860)、石川県能登から来道した柴田興次右衛門が、明治5年(1872)、創成川のほとり(現札幌市中央区南一条西二丁目)に小屋を建て、濁酒を造って販売した。「札幌市史」で酒造が確認出来るのは、このとき創業した「柴田酒造店」が初めてである。
この酒造店が、後に日本清酒株式会社として発展していく。
明治30年(1897)、柴田を中心に、小規模な酒造業者が合同して会社組織を作り、「札幌酒造合資会社」となった。その後、同社は豊平川の伏流水を利用するため、現在の本社工場のある中央区南三条東五丁目に移転した。
第一次世界大戦の好景気により道内産業は活気づき、清酒消費は順調に伸びたが、その後の経済不況により政府から、業界再編成の要望が下る。
昭和3年(1928)、組織変更した札幌酒造株式会社を中心に、札幌市、旭川市、小樽市や帯広町の合計七酒造業者が「日本清酒株式会社」として統合し、統一銘柄を「千歳鶴」とした。
この「千歳鶴」は、国税庁酒造試験所主催「全国新酒鑑評会」で昭和43年(1968)から57年(1982)の間、14年連続金賞の栄誉を受けている。
ミュージアムの館内展示光景
第34回主要国首脳会議(「北海道洞爺湖サミット」2008年7月)で各国首脳に土産として渡された酒(館内に展示)
利用案内
所 在 地:札幌市中央区南三条東五丁目 TEL:011-221-7570
アクセス:地下鉄東西線「バスセンター」駅九番出口より徒歩五分
付近の見どころ
千歳鶴酒ミュージアムがある創成川東地区は、同じ伏流水を利用した「サッポロビール」やヤマサ醤油で有名な「福山醸造」の工場群が、豊平川沿いに立ち並んでいる。工場には、それぞれに博物館があるので立ち寄っても面白いと思う。
文・写真 河原崎 暢