第5回 「函館市北洋資料館」 ―母船式サケ・マス船団、北洋の海原をゆく

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第5回は、函館市の「函館市北洋資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第5回 「函館市北洋資料館」 ―母船式サケ・マス船団、北洋の海原をゆく―

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函館市北洋資料館(北海道函館市五稜郭町7番地7号)

 JR函館駅前の電停から湯の川行に乗り、五稜郭公園前で下車。ゆるやかな坂道を10分ほど下ると、五稜郭タワーとその向かい側に道立函館美術館があり、函館市北洋資料館はその先にある。
函館は、北洋漁業の基地として大正時代から大きな役割を担ってきた。200カイリ水域規制の時代を踏まえ、北洋漁業の発展に奏した先人の歴史を伝えるため、昭和57年(1982)9月、函館市総合文化センター建設基本構想の一環として、五稜郭町に建てた全国唯一の北洋漁業の歴史館である。

 隣接する芸術ホールと共用の長いポーチを抜けると左側に受付けがあり、ホッキョクグマが迎えくれる。見学コースは回遊式であり、ボランティアガイドの解説もある。巨漢なトドの剥製が見つめる先には、堤清六が創業した日魯漁業(現マルハニチロ株式会社)の前身、堤商会の袢纏がある。堤は大正2年(1913)、自動缶詰製造機を導入しそれを足掛りに、大正から昭和にかけて、日魯漁業を世界の漁業会社に進出させた北洋漁業の先達者である。日魯漁業がサケ・マス漁獲量の優勝漁船に贈った優勝旗や母船乗組員の制服、写真パネルなども、陳列されている。

 その先に進むと、先人が拓いた北方漁業についての展示がある。寛永11年 (1799)、高田屋嘉兵衛が幕府の意向に添い、国後島から択捉島に渡る安全な新航路を発見し、南千島、樺太の漁業を開拓した。それによって函館が北洋漁業の基地になったと伝えている。
嘉兵衛の北前船や、堤と平塚がカムチャッカ河に初出漁した帆船のレプリカ、サケ・マス船団の母船、カニ工船などのミニチュアが置かれている。反対側中央は捕鯨の発射台が設置されている。捕鯨漁を録画映像で観ている女性。また、スケトウダラの加工船として活躍した大型タンカー(出光興産)「鵬洋丸」を描いた油絵をじっと見つめている男性もいた。魚群探知機なども置かれ、横壁には多種類のカニ標本が展示してある。隣の体験室では揺れる疑似船首内に、高いうねりと荒波が映し出され、舵をとる子ども達の歓声が聞える。

 北洋とは北太平洋のオホーツク海、ベーリング海沖のことで、母船式カニ工船、母船式サケ・マス船団などが操業する。第2次世界大戦によって一時中断されたが、10年を経て後の昭和27年に再開された。例年5月末に道内各地の漁港はもとより東北北陸方面からも漁船が函館港に集結し、3ヵ月間厳しい自然に挑む家族の無事を祈る姿、見送る色とりどりの紙テープ、いっせいに出漁するその光景は、毎年の風物詩となって季節のニュースを飾った。それらの展示写真に思いを馳せ懐かしむ来観者が多い。

 母船式船団とは、漁獲の処理、冷凍設備を備える母船(10,000トン前後)と、それに付属する多数の独航船と、調査船、仲積船を一組とするもので。再開初の船団数は、3船団で独航船50隻。が、ピーク時には16船団、500隻の独航船という記録がある。
北太平洋公海での母船式サケ・マス漁業は、母川国主義(遡上する川を持つ)の200カイリの漁業保存水域と生態系の維持のため年々縮小され、昭和63年年(1988)で廃止。そして平成4年(1992)、200カイリ水域外の公海でもサケ・マスの沖取りが全面停止された。
函館市北洋資料館は、北方漁業の息吹と北洋漁業の繁栄を鑑み、楽しく学ぶ事が出来る。

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館内の様子

利用案内
所 在 地:北海道函館市五稜郭町7番地7号 TEL:0138―55―3455
開館日時:午前9時~午後7時(4月~10月)、(11月~3月)は午後5時
休 館 日:12月31日~1月3日(館内整理のため臨時休館をすることがある)
10月~5月は毎週月曜日(国民の休日にあたる場合はその翌日)
入 館 料:一般100円、小学生~大学生50円(団体10名以上)2割引
交通機関:市電「五稜郭公園前」徒歩10分、函館バス「芸術ホール前」徒歩3分

周辺のおすすめスポット
特別史跡函館五稜郭公園に、平成22年(2010)、太鼓櫓がある箱館奉行所の日本伝統建築物が復元した。また、花見の時期、近くの五稜郭タワーから見下す五角形のサクラ並木は圧巻である。公園の北西に位置する函館市中央図書館は、平成19(2007)に日本図書館協会建築賞を受賞。1日平均、4、5千人入館し、幕末や開拓の資料が多数ある。

文・写真 真壁 郁子

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