上田文雄市長肝煎りの官制ワーキングプア対策、市公契約条例案が10月31日、市議会本会議で自民党などの反対で過半数に3人届かず否決された。同条例は札幌市発注の受注業者で働く労働者の賃金下限を定めようとしたものだったが、「賃金は労使間で決めるのが筋」「経営を圧迫する」という業界側の意を受けた反対派を最後まで説得できなかった形だ。(写真は、上田文雄札幌市長)=北方ジャーナル連携記事。
今回の条例否決を上田市長と経済界が対立しているような図式で見るのは適切ではない。業界側の理解が得られなかったとはいえ、実は札幌市は発注業者としてとりわけ中小零細企業の振興策に熱心に取り組んできているからだ。そのひとつが市からの仕事量を増やすことにより間接的にそこで働く労働者の雇用や賃金を守ろうとするもの。公契約条例といわば表裏の関係にある中小零細企業への振興策の実績を見てみよう。
中小企業の定義は業種によって異なるが、市内に多い小売業では従業員150人以下、資本金5000万円以下が中小企業で、小規模事業者となると小売やサービス業で5人以下を指す。商工業者の団体である札幌商工会議所の会員も中小企業が9割を占めるほか、従業員5人以下という小規模事業者も決して少なくない。
地方公共団体や国などの官公庁が、物品購入、役務の提供、工事の請負契約を民間と結ぶことを「官公需」と言うが、国はこうした官公需を中小零細企業が受注する機会を増やすために一定の数値目標を掲げて毎年閣議決定している。2012年度では56・3%に設定したが、全国の実績は53・5%で目標を3ポイント下回った。
札幌市を見ると、12年度の官公需契約実績2113億4700万円のうち中小零細企業の受注実績は1676億2600万円で、比率は79・3%。全国平均よりも25ポイントも上回る結果となった。項目別にみると物品購入では62・4%、工事は76・6%。役務に関しては実に85・2%を占めており、地元に大企業が少ないという事情はあるにせよ同市が中小零細企業向けに手厚い発注を行なっていることは数字上でも明らかだ。
零細企業が集まって協同組合を作れば、こうした官公需を受注できる資格(適格組合)を持つことができるが、札幌市の場合は札幌エネルギー協同組合や札幌建具協同組合など11の業種組合が官公需に対して競争入札に参加できる資格を持っている。また一部は随意契約でこれなども零細企業に対する支援策として注目されるものだ。
中小零細企業の経営が安定していなければ労働者の雇用や賃金は守れない。公契約条例の否決は上田市長の面目を潰した形になったが、札幌市は中小零細企業の経営支援にも熱心であることを業界側はあらためて知っておく必要がある。
中央政界では「アベノミクス」を追い風に政府・与党がこぞって従業員の賃金アップを経済界に求めている。今回、反対に回った市議会の自民会派や公明会派は党本部の方針とどうベクトルを合わすのか、対案を示すべきだ。